第40話:曇天の閃光

「米駆逐艦、撃沈を確認!」

「米重巡の動きは?」

「後退して行ってます」

「このまま撤退してくれりゃあ言う事無いんですがね……」

「十中八九増援艦隊と合流して反撃するつもりだろうな」

「……でしょうねぇ……」

「敵機は?」

「既に目視距離です、数は40、約10分程で到達します!」

「その後方にも多数の機影確認、機種は不明です!」

「第四艦隊の離脱状況は?」

「本艦との距離32000、速力30ノットで北東に向け航行中、第二戦隊と島風が合流して護衛に付いています」

「本艦も(島風や第二戦隊と)合流しますか?」

「……そうだな、対空警戒を厳とし後退する、速力第ニ超戦速(70ノット)取り舵針路2,2,5」

「速力第ニ超戦速、取り舵針路2,2,5よーそろ!」


 遠くに逃れる米巡洋艦から主砲の照準を外した出雲は対空レーダーをフル稼働させつつ艦首を北北東に向ける。


 一方上空では猛然と飛来する米航空編隊を八航戦とルング基地航空隊が補足していた。


『敵機の数は約40、恐らくは全て戦闘機と思われる、数の上では此方が有利だが油断はするな!』


 迫り来る米航空隊を前にルング基地航空隊の部隊長が部下達に無線で檄を飛ばす。


 ルング基地航空隊は零戦三型が40機、零戦ニ型が20機、そして零戦五型3機で構成されており是に八航戦12機を加えれば確かに数の上では圧倒的に有利と言えた。


 しかしこの状況に在っても八航戦の毛利は不安がぬぐい切れなかった、と言うよりは確信めいたモノが有ったのだ、厳しい戦いになる、と。


 先程遭遇した米新型機、あれが全てでは無いだろう、恐らく40機の内半数程度は新型機で構成されているのではないか、最悪あの灰色・・も来ている可能性が有る、そう毛利は考えており正しくその通りであった。


 灰色の機体XF4Uが3機である事を除けば……。


『今川隊長、敵機を目視で視認しました!』

『よぉし、大和隊だけに良い恰好はさせられん、今度は我等武蔵隊が力を示す番だ!!』

『 『 『 『 『おおーっ!!』 』 』 』 』


 米航空隊に尤も近い位置に居た武蔵航空隊は敵機を視認するや否や今川機を先頭に突撃を敢行する。


 敵編隊前列は旧式のF4Fで構成されておりそれを視認した今川は余裕の笑みを浮かべながら引き金に指を掛ける、然しその時、耳を劈く音に今川が一瞬動揺する。


『これは……何の音だっ!?』

『駄目だ、回避しろっ!!』


 後方で立花がそう叫ぶが遅かった、遥か後方から一瞬でF4Fを追い越し武蔵隊と擦れ違う3つの灰色の影、その次の瞬間今川機とその横を飛ぶ瑞雲の機体表面が爆ぜ今川機はその場で爆散、もう一機は錐揉みしながら海面に激突する。


『《あっちゃぁ、ごめんアタシだけ外したみたい》』

『《大丈夫よメリー落ち着いて》』

『《クリス、前方から瑞雲ジークだ!》』 


 事も無げに瑞雲2機を撃墜したクリスとディハイル、メリーは緊張して外した様だ、そこに増槽を投棄した一機の瑞雲が猛然と接近して来る。


『待て立花、突出するなっ!!』

『危険よ戻りなさいっ!!』


 立花機だった、制止する毛利と斎藤の言葉にも立花は速度を落とす事無くXF4Uに向かって突っ込んで行く。


『そ、蒼士、あの・・灰色が3機だぞ、単身では危険だ冷静になれっ!!』

『僕は冷静だよ、あいつ相手に固まる方が危険なんだっ!!』


 その言葉と同時に立花は機体を右に捻り軌道を変える、直後立花機の元の軌道上にXF4Uの銃撃が通り立花機とXF4Uの3機が超高速で擦れ違う。


『《嘘でしょ!? 今のを避けたのっ!?》』

『《ディハとメリーはこのまま前方のジークの相手を! アイツ・・・は私が墜とすわっ!》』

『《クリスにしては珍しくやる気だな、了解した》』

『《分かったわオゥケィ! 良いデータが取れそうね!》』


 その言葉を合図にXF4U3機は其々別れクリス機は機体を翻し同じく機体を反転させた立花機と機首を向かい合わせほぼ同時に射撃しながら機体を捻り擦れ違う。


『《『この機体、奴だっ!』ねっ!》』


『《あの時・・・の借りーー》』

『武田さん達の仇ーー』


『《ーー返させて貰うわっ!》』

『ーー討たせて貰うっ!!』


 クリスは怒気を孕んだ声を、立花は怨嗟の篭った言葉を吐き出し互いに鋭利な軌道を描きながら銃口を向け合い背後を取り合う。


『くっ! 灰色が2機か……っ! 各機増槽投棄! 油断するな!』

『 『 『 『了解!』 』 』 』


 大和航空隊はXF4U2機との交戦に入るや毛利が増槽投棄を命じ、ほぼ同時に射撃を行うが双方共に回避を優先した為か被弾した機体は無かった。


 武蔵航空隊とルング基地航空隊もF4FとF6Fの部隊と交戦に入り、各機入り乱れての空戦が始まる。


 ・


 一方海上では日輪艦隊に米巡洋艦隊が接近しており出雲を始めとする第十三艦隊の艦艇が第四艦隊の周囲を堅め護衛していた。


「出雲二号より入電、4時方向距離45000より敵艦隊接近中! 巡洋艦11、駆逐艦12と見ユ!」

「拙いですね第四艦隊は旗艦鹿島の機関不調に加え損傷艦を伴っての航行ではこれ以上速度は上げられません、30分も掛からず追い付かれますよ!」

「……なら、その道に我々が立ちはだかろうじゃないか、面舵反転!」

「ーーっ! 了解です!」


 出雲艦長佐藤の決断に副長の菅田は我が意を得たりとばかりに頷き、艦橋要員達も口角を上げ、操舵手が舵を思い切り右に切る。


 すると出雲は大きく左に傾きながら蒼海に弧を描き針路を反転させる。  


「機関最大、左舷砲雷撃戦用意!!」


 佐藤の指示で出雲は速度を80ノットに上げつつその砲身を左に向け水平線の先の米艦隊を撃たんと構える。


 米追撃艦隊は哨戒艦隊の生き残りを合わせた重巡9,軽巡2,駆逐艦12隻の艦隊であり既に出雲を補足はしていたものの、その速度までは計測出来ていなかった。


 互いに60ノットと80ノットで接近する出雲と米追撃艦隊の距離は瞬く間に25000までに接近する。


「左舷反航戦、主砲撃ち方始めぇっ! 続いて魚雷一番から四番、方位1,1,2へ発射!!」


 出雲は最大戦速のまま主砲4基12門と下部魚雷砲塔2基4門を一斉に発射し、ほぼ同時に米艦隊も射撃を開始する。


 出雲は立ち上がる水柱の中を猛然と突き進みながら砲撃を敢行し米重巡1隻を大破脱落に追い込んだ。


 対する米艦隊の砲撃は高速で動く出雲には中々当たらず出雲は米艦隊の射角外に逃れ背後から砲撃を浴びせる。


「《な、何だあの艦は、一体何十ノット出しているのだっ!! それにあの速度で何故正確な砲撃が出来るっ!?》」 

「《さ、先程合流した哨戒艦隊からの情報は……た、正しかったのでは!?》」

「《バカなっ!! 砲撃が効かず70ノット以上で正確な射撃をして来る、そんな非常識な艦を日輪ジャップが造れる筈はーー》」


 米艦隊司令が目の前の現実を直視出来ず狼狽して叫んだその時、真横を航行していた同型のボルチモア級巡洋艦から巨大な水柱が立ち上がり自艦と同じ姿をした艦はその形を崩しながら水底に没して行く……。


 自らの乗艦と同じ艦が呆気なく轟沈する様を見せつけられた米艦隊司令は後ずさり表情は青くなっている。


「《ぎょ、魚雷だとぉっ!? い、いつの間に!? い、いや潜水艦が潜んでいるのかっ!? と、取り舵、取り舵反転!! く、駆逐艦を差し向けろっ!! 今直ぐにっ!!》」

「《……え? 潜水艦に、ですか? それとも巡洋艦にですか?》」

「《潜水艦に決まってるだろう!! 何の為の駆逐艦デストロイヤーだ!! 一個戦隊を差し向け潜んで居る潜水艦を爆雷で沈めるんだ、今、すぐにっ!!》」


 要領を得ない副官の言葉に艦隊司令は金切り声に近い声で叫ぶ、詳細な指示を出さなかったのは艦隊司令にも落ち度が有るのだが其れを理解する余裕は既に失われている様であった。


 米艦隊は一個戦隊(軽巡1、駆逐艦5)を居る筈の無い潜水艦に振り分け本隊(重巡7、軽巡1、駆逐艦7)が出雲と相対する。


 ここで米本隊の駆逐戦隊が出雲の頭を押さえる為に深く取り舵を取り本隊と離れる、その間も出雲と米本隊との間では激しく砲火が交差し米重巡1隻の二番主砲塔が吹き飛び出雲も数発の直撃弾を受け艦体に損傷は無いものの内一発が高角砲1基に命中し吹き飛んだ。


「ちっ! やってくれるぜ!」

「艦長、11時方向より敵駆逐戦隊急速接近中っ!! 現在距離12000っ更に接近中!!」 

「よし、一気に始末する、魚雷一番から四番方位3,3,7へ発射! 回転式砲ガトリングカノン照準敵駆逐隊、撃ち方始めぇっ!!」 

 

 出雲は至近距離に立ち上がる水柱を掻い潜り大量の海水を浴びながら斜め前に展開する米駆逐隊に向け回転式砲ガトリングカノンの射撃を開始、同時に左舷の米重巡艦隊に砲撃を敢行しながら密かに魚雷を放つ。


 米駆逐隊は魚雷を放たんと横腹を晒した所に出雲の回転式砲ガトリングカノンの砲撃を受け次々と爆ぜて行き、その攻撃をいち早く察知した駆逐艦2隻を除き瞬く間に米駆逐隊は壊滅する。


 残った2隻の駆逐艦は米哨戒艦隊の生き残りで有り出雲の凶悪な性能を思い知っていた者達であった。


 だが命欲しさに逃げた訳では無く、自分達の進言を信じず無謀に突っ込む水雷戦隊司令を見限り、自分達だけで僚艦の仇を取る為に生き残る為の選択をしたのだ。


 日輪巡洋艦いずものガトリング砲が一度射撃をし切った後冷却時間クールタイムが有る事を知っていた米哨戒艦隊の生き残り2隻は射撃が途切れた瞬間を合図に最大戦速で出雲の右舷に向けて肉薄し有りったけの魚雷を放つ。


「《この距離ならっ!!》」 


 絶対に当たる、そう確信した米駆逐艦長であったが、出雲は有り得ない角度で右旋回をした後、更に右斜め前にスライド・・・・し魚雷を全て回避した。


「《馬鹿なっ!? ジャップの艦は化け物モンスターかっ!!》」


 驚愕する米駆逐艦長の眼前には左舷に向いたままの出雲の主砲口があった、余りの出来事に硬直してしまった2隻の駆逐艦は至近距離での砲撃を浴び艦が砕け砲が魚雷管が宙を舞い敢え無く水底に没して行った。

 

 その光景を目の当たりにした米艦隊司令は愕然としたまま立ち尽くしていた。


「《砲撃が殆ど効かない上にあの機動力にあの火力……な、何なんだ……何なのだあの艦は……っ!!》」

「《し、司令……まさかアイツは、第七艦隊や最新鋭戦艦隊を壊滅させた魔王サタンでは無いでしょうか……?》」

「《なぁっ!!? サ、魔王サタンだと、アレ・・がそうだと言うのかっ!? 確かにあの艦型は報告と酷似している……っ!? か、勝てるわ訳が無い……! て、撤退だ、全艦撤退急げぇーーっ!!》」


 米追撃艦隊の司令は狼狽え後ずさりながら上ずった声で叫ぶ、その指示通り艦隊が転舵しようとしたその時、横を航行していた僚艦から巨大な水柱が立ち上がる。


「《ま、また魚雷だとぉっ!? 駆逐艦は何をしてーー》」


 駆逐隊への叱責を艦隊司令が最後まで口にする事は適わなかった、僚艦の被雷から間を置かず、今度は艦隊旗艦から2本の巨大な水柱が立ち上がり艦が轟沈してしまったからだ。


「敵巡洋艦、轟沈1、大破1を確認!」

「敵艦隊撤退して行きます!」

「よっしゃまた勝ったぜっ!! これで誰にもホテルなんざ言わせねぇ!」


 通信員からの報告に菅田は思わずガッツポーズを取り佐藤も腕と足を組んだまま口角を上げる。


「ーーっ! 出雲二号より入電、敵航空編隊接近中、数は約60、後10分程で敵機有効射圏内! 敵機は全て攻撃機と思われます!」

「……来たか! 総員対空戦闘用意! 速力第五戦速(45ノット)面舵針路3,3,7!」


 佐藤の指示で艦は緩やかに左に傾きながら進路を変え艦内に警報と放送が鳴り響き乗員達が慌しく配置に付いていく。


 ・


 一方空でも零戦と瑞雲、F4FとF6FそしてXF4Uが激戦を繰り広げていた、現状日輪軍の損害の殆どが零戦三型であり米軍の損害の殆どはF4Fと言う状況であった。


 ルング基地航空隊と武蔵航空隊はF6Fに苦戦していたが零戦ニ型や五型の搭乗員の力量で何とか食らい付き、瑞雲はその変則的な軌道を駆使して戦っている。


 大和航空隊は徳川機が早々に被弾し離脱しており、対するディハイル機とメリー機は二対一の状況を機体性能の優位でカバーしながら戦っていた。


 その中に在って次元の違う空戦を繰り広げているのは立花機とクリス機で在った。


 立花機は垂直離着陸機構を、クリス機は可変翼とエアスラスターを最大限に利用し互いに常人では有り得ない反射速度と空戦機動マニューバで相手の銃撃を躱しながら鋭利な軌道を描き絡み合う様に闘っている。


 互いの搭乗員の眼は片時も相手から視線を外す事は無く手足だけが機敏に動いている、特に立花は全ての操作を一人で行っており島津は不規則な加重に耐えながら唖然と立花を見ていた。


 中にはその戦いに見入る余りその隙を付かれ撃墜される者までいるほどの高度な空戦で有った。 


『《くそっシャイセ! 機体性能は此方がずっと上のハズなのにっ!!》』


 立花機と互角の戦いをしているクリス機だが、互角であるからこそ精神的に追い詰められていた、機体性能を考慮すれば明らかに操縦士パイロットの力量としては立花が上だと思い知らされているからだ、故にクリスが憎むべき元母国ゲルマニア語を使ってしまったのも仕方ないと言える。


 だが立花は立花で絶望していた、自身の駆る愛機、瑞雲の性能に……。


 平賀は瑞雲の設計に置いて蓄力炉と推進機廻りの無駄を極限まで省き、可能な限りの強化を行ったと言っていた、つまり瑞雲の基本設計に置いてはこれ以上の機体的性能向上アップグレードは不可能と言う事になる。


 最大限に性能を向上させてこの程度・・・・、これでは駄目だ、これではアイツ・・・を墜とす決定打に欠ける、立花は心中でそう吐き捨て絶望していたのだ。


 垂直離着陸機の限界、当然である、本来飛行機とは揚力を以って大空を飛翔する乗り物である、機体形状で空力を制しより疾くより遠くへ可能な限り軽快に。


 それを効率よく機能的に行うには機体の大きさと重さ推進機出力に比例する滑走距離と着陸距離が必要になる。


 瑞雲はそれを力技で無理矢理に捻じ曲げた設計なのだ、当然その代償は大きく本来なら生粋の戦闘機と真面に戦える機体で有る筈が無い。


 それを『偵察機と称した戦闘機』と言わしめるまでの性能に仕上げたのは天才航空機設計士『堀越聡次郎』の力に他ならない。


 無論、その特異ピーキーな特性を使いこなせる搭乗員の能力が有ればこそだが……。


 結論を言えば、垂直離着陸機構などと言う余計な機能・・・・・が付与された機体が純粋な制空戦闘機に適う筈が無いのである。


 余計な推進機を積み、それを指向噴射させる為の補助機構を取り付け、それらを支える複雑で頑丈な骨組みフレーム、重くならない筈が無いし重くなれば運動性能は低下する、当然の事である。


 それを瑞雲搭乗員達は垂直離着機構を本来の用途では無い軌道変更や瞬間加速などに使い運動性の不利を補って来たのだ。


 今までそれで何とかなって来たのは対戦相手であるF4FやF6Fの運動性能が総じて低かったからであり、もし強化前の瑞雲が零戦ニ型と戦えば撃墜対被撃墜比率キルレシオは零戦に軍配が上がる可能性が高かったのだ。 


 つまり零戦と同等の運動性能を有し速度で遥かに凌駕するXF4Uに瑞雲が適う筈が無いのである、立花はそれを実感し痛感したのだ……。


『こちら出雲二号、艦隊南方より敵攻撃機編隊60機が接近中だ、至急救援を請うっ!!』


 不意に通信機に若い男の声が響く、だが立花にそんな余裕は無い、そしてそれは他の操縦士パイロット達も同様であった。


『大和隊の毛利だ、すまないが此方は手がーー離せないーー』

『こちら武蔵隊の朝倉だ、我々も敵新型機F6Fの相手で手いっぱいだ!』

『ルング基地航空隊の北条だ、損耗が激しく敵新型機F6Fを振り切る事も出来ない、救援は不可能だっ!』

『ふざけんなよ!! 何の為の直掩機だ、このままじゃ出雲が沈んじまう! ああもういいお前等には頼まん、自分の母艦は自分で護ってやるさ!!』


 通信機から伝えられる各航空隊からの無情な返答に出雲二号の若き操縦士が感情のまま叫ぶ、無論彼にも状況的に無理な事も仕方ない事も理解はしているのだろうが、それは感情を抑える理由にはならないようだ。


 その時、出雲からの通信が航空隊各隊に流れる。


『こちらは重巡出雲です、接近中の米攻撃機に対しては本艦で迎撃します、それに伴って強い閃光ののち衝撃波が発生すると思われます、可能な限り米攻撃機編隊から離れて下さい!』


『迎撃する? 閃光? 衝撃波? どういう事だ? [いずも]は何をするつもりだ!?』


 出雲二号から困惑の声が各隊の無線に流れるが各隊の操縦士達も同じ疑問を抱いていた、だがそれに耽る余裕は無い操縦士達は目の前の敵に集中する。


 その時海上の出雲から砲声が鳴り響く、主砲を射撃した様だ、それに伴い無線から出雲通信員の声が響く。


『着弾まで10秒』

『9』

『8』

『7』


『お、おい蒼士そっちはーー!』


 出雲から流れた無線の警告を無視し、突如最大速度で南に進路を取る立花機、その無謀な相棒の行動を島津が止めようとするも一気に加速する機体の加重に言葉が止まる。


 クリスは突如進路を変えた日輪機立花機の行動を訝しがるものの、逃す訳にも行かず追撃せんと機体を翻す。


 その間にも出雲からの秒読みカウントダウンは続いている……。


『3』

『2』

『1』

『今っ!!』


 立花機がクリス機の銃口に捉えられたその時、出雲通信員の声を合図に立花機は機体を素早く横転ロールさせ急降下する、次の瞬間彼方曇天の空に3つの眩い閃光が発せられる。


『《ーーっ!? しまったフェアダムト!!》』


 クリスは思わず叫んだ、数十キロ先で起こったその閃光は太陽光の様な眼が眩むほどの光量は無い、だが突如発せられた強い光を意識的に無視すると言うのは難しい、クリスは一瞬その光に注意を奪われた、それはコンマ0.5秒にも満たない僅かな時間、然し亜音速戦闘に置いて敵を見失うには十分過ぎる時間だった。


 クリスは即座に脳内で日輪機立花機の軌道を計算すると追撃態勢を整えるべく素早く機体をロールさせ可変翼を広げた、その瞬間大気の振動と共に機体に衝撃波が襲い掛かる。


『《ーーなっ!!?》』 


 突然の爆風に姿勢を崩し失速するクリス機、それとは対照的に爆風と垂直離着陸機構を利用し機体の方向を変えた立花機は機体正面にクリス機を捉えていた。


『《ーーっ!! まさか、爆風まで計算して機体の角度をーーっ!?》』  

『これで……終わりだっ!!』 


 刹那、立花の瞳に驚愕する米操縦士クリスの姿が映り込む、次の瞬間立花機から放たれた銃弾はクリス機のコクピット部から胴体、左推進機と撫で斬る様に撃ち抜いて行った……。

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