第21話:第三次ソロン海戦前編~~混沌の海峡

 戦艦大和が米機動艦隊を追い詰めていた頃、本隊はフローラ諸島ブエル・ピスタ島北を航行していた、然しこの時スコールの影響で戦列が乱れ先陣を切っていた筈の第八艦隊よりも第五艦隊が先行してしまっていた、またその第五艦隊内でも隊列の乱れが生じ駆逐艦吹雪ふぶき綾波あやなみ夕立ゆうだちが突出し、その後方約2000メートルには艦隊旗艦青葉あおばを含む重巡戦隊が航行していたが豪雨が降り注ぎしるべとなる光も無い漆黒の海原である、スコールが止んだ後も誰もその事に気付く事無く艦隊は目的のサヴァ海峡に到達しつつ有った。


「艦長、見張りより左舷後方600に展開する艦の形状が僚艦白雪しらゆきと違うとの報告がありました、白露型ではないかと……」

「白露型? 第四戦隊の艦が突出して迷い込んだか、然しここで発光信号や短距離無線を使う訳にはいかん、放っておけ……」

 スコールが上がり視界が回復した事で周囲の異変に見張りが気付いたが、その報告に駆逐艦吹雪の艦長は溜息交じりに呆れた様子で手をひらひらさせると再び漆黒の海原に目線を向ける、まさかこの時、自艦が突出して艦隊の先頭に居ようとは思ってもいなかった。


 その時、突如吹雪前方から此方に向かって来る艦が見張りより報告される、その報告に吹雪の艦長は混乱する、自分達の前方には第八艦隊が存在する筈である、ならあの艦は第八艦隊の艦か? 何故逆走を? 混乱する頭でそう思考した吹雪艦長の耳に信じられない報告が届く。


「敵です! 前方の艦は米駆逐艦マハン型ですっ!!」

「なっ!? た、対艦戦闘用意!!」

 吹雪の艦長がそう叫んだ時、米駆逐艦が至近距離で吹雪に砲撃を浴びせて来た、吹雪は運悪く前部主砲を吹き飛ばされ左側舷にも有効打を受け速度が低下してしまう、其処に後続の米駆逐艦の集中砲火を受けると瞬く間に火達磨となり魚雷が誘爆し爆沈してしまった。


しかし米マハン型駆逐艦もまた夕立の砲撃と綾波の雷撃を受け吹雪の爆沈直後に大破横転する。


 その後夕立と綾波は米艦隊の砲撃に晒され、それを回避する為に取り舵を取り艦隊からどんどん離れて行ってしまう、その状況下でも後方の日輪艦隊からの援護射撃は殆ど無かったのである、その理由は艦隊司令の錯誤に有った。


「バカタレ!! 前衛艦は何をやっとるんだ!! 何故同士討ちをしとるっ!? 直ぐに停戦の発光信号を送れぇ!!」

 吹雪後方2200メートルに展開していた艦隊旗艦青葉の艦橋では戦闘報告を受けた五藤提督が顔を真っ赤にして怒鳴り上げていた。


 五藤もまた第八艦隊が前方に展開していると思っており、夕立と綾波の行動を同士討ちと判断してしまっていたのであった。


 米艦隊側も突然日輪艦隊が現れた事に驚いて多少の混乱は有ったものの、第一次ソロン海戦の戦訓から即座に敵味方識別を行い攻勢に出ていた。


 敵を味方と誤認し後手に回った日輪海軍と、素早く敵味方を判別し先手を取った米海軍、この両艦隊の初動の差は余りにも大きな差となってその後の局面に影響する事になる。


 暗闇の先から執拗な砲撃を受ける第五艦隊旗艦重巡青葉は日輪第八艦隊と誤認した米アンダーソン防衛艦隊に対し【ワレ アオバ】の発光信号を送り続けた、その日輪艦隊の行動に第一次ソロン海戦で同じ行動を取った自身の失態を思い返しながらアンダーソン防衛艦隊司令『ダグラス・G・キャラハン』少将は思わず失笑する。


「何故攻撃が止まらんのだ!? 発光信号が見えんのか……ぐぁっ!!!」 

 一向に止む気配の無い砲撃に怒号を飛ばす五藤提督で有ったが、次の瞬間青葉の艦橋が爆風と爆炎に包まれ五藤提督を始めとする艦橋要員が吹き飛ばされる。


「ぐはぁ……っ!! ……バカタレ……バカ……タレ……」

 それが五藤提督の最後の言葉となった、青葉は艦橋と二番主砲に直撃弾を浴び、艦橋要員は全滅、指揮能力の全てを失った青葉はフラフラと蛇行しながら反転し離脱していった。


 その状況を見ていた重巡衣笠の『近藤こんどう 信松のぶまつ』海軍中将が指揮を引き継ぐが、この時点で駆逐艦初雪はつゆき東雲しののめ朝霧あさぎり天霧あまぎりが撃沈され白雪しらゆきが大破横転(後に沈没)叢雲むらくも敷波しきなみ狭霧さぎり春雨はるさめと軽巡北上きたがみが大破し戦線を離脱、前衛に展開していた第二~第四戦隊の内第二戦隊は壊滅、第三戦隊は半壊し脱落艦が春雨1隻であった第四戦隊も多数の損傷艦を出していた。


「くっ! あれは第八艦隊では無い敵だ!! 第五、第六、第七を前面に出せ、第二、第三、第四は下がらせ隊列を整えさせろ!!」 

 この時点では近藤提督は混乱した各戦隊から報告を受けておらず第二戦隊が壊滅している事も第三戦隊が半壊している事も知らず、態勢を整えさせれば再起出来ると考えていた。


 しかし実際には第二戦隊は北上と叢雲を除いて全滅し、その2隻も大破し離脱していた、第三戦隊には軽巡阿武隈あぶくまと駆逐艦夕霧ゆうぎりが健在で有ったが半数以上が沈没若しくは脱落しており、健在艦の多い第四戦隊の白露型4隻と軽巡長良ながらも決して無傷では無かった、この時孤立した夕立と綾波は各戦隊司令に沈没したと思われていた。


「提督、本艦隊右翼後方距離6000より第八艦隊が接近中です、三川提督より通信が入っておりますが……」

「……話している余裕は無い、兎に角敵を沈めろと伝えてくれ!」

「は、はっ!」

 平時では温厚な近藤で有ったが今は振り向く事もせず漆黒の海に潜む敵を睨み言葉を荒げる、それを受け参謀は表情を強張らせながら敬礼し立ち去った。


 とは言え第八艦隊の出現で艦隊の立て直しの目途が立った近藤提督は内心胸を撫で下ろしていた、これで隊列を立て直し打撃艦隊護衛の第九艦隊とも合流出来れば反撃に転じる事が出来る、そう近藤提督が思案していた時、突如眩い閃光が放たれ漆黒の海に潜む日輪艦隊の姿を白日の下に晒し出す。


「……っ!! 照明弾か!! 不味いぞ、全艦回避行動に移れ!!」

「砲撃が来るぞぉーーーっ!!」

 騒然となる艦橋内で近藤提督の見開かれた双眸には閃光に照らし出された友軍艦と米駆逐艦十数隻が入り乱れて交戦する姿が映り、その遥か先に照明弾を放ったと思われる艦隊の影を感じ睨みつける、だが通信兵の次の一言が近藤提督を戦慄させた……。


「本艦隊左舷後方距離5000より第二艦隊接近中!!」

「戦艦伊勢、日向、その後方に扶桑、山城を目視で確認っ!!」


「な……っ!? 何故第二艦隊がこの距離に……まずいぞ、直ぐに下がらせろ!! 此方も照明弾を放て、敵の位置と数を確認するんだ!!」 

 近藤提督がそう叫んだその時、照明弾を放った米艦隊、重巡8隻、軽巡4隻、駆逐艦8隻からなるキャラハン艦隊の本隊が暗闇の中から水面に照らし出された日輪艦隊に砲身を向け射撃を開始する。


 敵味方が入り乱れている為、一斉射撃や雷撃は控えられ命中弾は多くなかったものの、この砲撃で駆逐艦うしおが沈没、おぼろが大破横転(後に沈没)涼風が大破し戦線を離脱した。


「くっ!? 一旦距離を取れ! 第八艦隊に援護要請をするんだ!!」

「既に前衛艦隊は敵本隊に接近し過ぎています、反撃した方が良いのでは!?」

「……各個の判断で反撃は許可する、だが距離を取る事を優先させろ、第二艦隊は退避出来たのか?」

「それが……敵駆逐艦数隻に退路を塞がれ至近距離で交戦状態の様です!!」

「それは拙い……救援に向かわねば……!」

「む、無理です、この現状では……」

「……くっ……何て事だ、是じゃ陣形も何も有ったモノじゃない、只の消耗戦じゃないか……」 

 司令席から立ち上がり茫然と眼前を見据える近藤の眼には日米両軍が放った照明弾の光の下で敵味方入り混じって近距離で撃ち合う前時代的な海戦の光景が広がっていた。


 この時キャラハン本隊も乱戦に巻き込まれつつ有り旗艦である重巡サンフランシスコは僚艦である重巡と軽巡に守られつつ砲撃を敢行していた、しかし戦場の反対側、サンフランシスコの右舷距離6000から忍び寄る二つの艦影には全く気付いていなかった。


 重巡サンフランシスコを距離6000で捕捉していたのは日輪駆逐艦夕立と綾波であった、二艦は至近距離で速度を合わせ手旗信号で合図を送り、示し合わせて九五式酸素魚雷を二本ずつ放った、綾波の放った魚雷はサンフランシスコの艦中央部に、夕立の放った魚雷は前部主砲塔直下に直撃し大きな水柱と共に爆炎が上がり艦が裂け一気に二つに折れた。


 この攻撃で艦橋が爆風で吹き飛びキャラハン提督は戦死し、艦体が折れたサンフランシスコは間もなく海中に没して行った、是により只でさえ混乱していたキャラハン艦隊の指揮系統は完全に崩壊し指揮を受け継いだ指揮官は居たものの艦隊としては殆ど機能しなくなっていた。


 浮き足立つ米巡洋艦隊に対し夕立と綾波は更に4本つづ計8本の魚雷を放ち米重巡1隻が大破横転(後沈没)1隻を航行不能に追い込み2隻を中破させると再び漆黒の海に姿を隠した。


「やりましたね艦長、大戦果ですよ!」

「ああ、偶然とは言え良い位置に飛び出せた、僚艦の綾波も練度が高く頼りになる」

 駆逐艦夕立の艦橋は重巡5隻の撃沈(確認不足による誤認、実際は撃沈2、航行不能1,中破2)に沸いていた、艦橋内は視覚的には薄暗いが雰囲気は真昼の如く明るかった、夕立の若き艦長『吉川きっかわ ひとし』少佐は艦橋窓から前方を航行する僚艦綾波を誇らしげに見つめている。


「まだ魚雷は4本残っています、次の獲物は……」

「艦長、綾波より【10時方向距離6000に戦艦2隻の艦影見ユ】との報告有り!」

「おお、戦艦とは願ってもいない大物ですな! 粒子乱流の影響はまだ残っています、闇に紛れ我が軍の誇る酸素魚雷を以てすれば雪風を超える武功も不可能では有りません!」

「うむ、左舷砲雷撃戦用意! 綾波との連携を密にせよ!!」

「っ!? 綾波前方6000より敵駆逐艦急速接近中、数3!」

「ちっ! 感付かれたかっ!!」

 夕立と綾波が米戦艦に対する雷撃を敢行せんとしたその時、二艦の前方より米駆逐艦3隻が現れ砲撃して来る。


 綾波は夕立に対し【我 敵戦艦へ突撃を敢行ス 援護サレタシ】の手旗信号を送ると速度を上げ取り舵を取り艦首を米戦艦に向けて蛇行を始めた、それを受け夕立は面舵を取り米駆逐艦に対し砲撃を行い魚雷2本を発射すると速度を上げて回避行動を取る。


 夕立の砲撃は全弾外れたものの、魚雷は米駆逐艦2隻に其々命中し、一隻が爆沈、もう一隻が大破横転した。


 一方綾波の接近に気が付いた米戦艦サウスダコタは左舷副砲で迎撃するが副砲レーダーリンクシステムを持たないサウスダコタの砲撃は暗闇の中では中々当たらなかった、この時ノースカロライナが奥面に居た事はサウスダコタにとって不運で有った。


 綾波は高速で蛇行し砲撃を躱し距離を詰め肉薄すると一気に速度を落とし急速に面舵を切り横腹を晒すと同時に魚雷4本を発射した、そしてついでとばかりに有らん限りの力で砲撃を浴びせサウスダコタの副砲1基と測距儀を損傷させた。


 一方日輪駆逐艦あやなみの雷撃に気付いたサウスダコタは速度を上げながら取り舵を取り回避を試みるも、左舷後部に2本の魚雷を受け大きな水柱が立ち上がる、しかし速度を落とし距離も近かった綾波は米戦艦2隻の砲撃に晒され砲が、艦橋が、艦体が爆ぜ散らされ爆炎に包まれながら漆黒の水底に没して行った……。


 その様子は残っていた米駆逐艦を砲撃戦で制し、自艦も損傷しながらも綾波に合流せんとしていた夕立からも確認されており、双眼鏡を下ろした見張り員は沈痛な面持ちで伝声管の蓋を開け僚艦綾波の最後を艦橋へ報告する。

「……っ!? 見張り員からの報告です、綾波が……沈んだと……」

「ー-っ! 敵戦艦は?」 

「……損傷している様ですが健在です!」

「即応魚雷の残りは2本……綾波の仇だ、最大戦速面舵反転、左舷砲雷撃戦、目標米戦艦……」

 語気鋭く命令を出していた吉川で有ったが語尾でその勢いは急速に衰え何かを察知したように表情が強張る。


 それはたいらの『超感覚』に近い吉川ので有ったが、それは正確に事態を察知していた、この時米戦艦ノースカロライナはレーダーを調整し夕立を捕捉、左舷4基の副砲を夕立に向けていたのである。


「取り舵いっぱい、煙幕を張れっ!!」

 吉川の叫びに操舵手は機敏に反応し右に旋回していた船体を無理やり左に曲げる、艦が傾き軋む音と波を切り裂く音の後に、轟音と水柱が立ち上がる。

  

「くそっ! 正確にこっちを狙って来やがる、矢張やはり奴らは電探射撃を実用化しているのか……!?」

 砲弾と水柱を搔い潜り回避行動を取る夕立の艦橋で吉川が歯をむき出しに言葉を絞り出す様に叫ぶ、米海軍の電探レーダー射撃実用化の可能性は第二次ソロン海戦の比叡と霧島の撃沈を受け決定的となりソロン攻略艦隊の艦長以上の士官には通達されていた。


 然し友軍で有る大和型戦艦に電探射撃が実装されている事が大和の関係者以外には知られていなかったのは秘匿兵器で有るが故だが皮肉な話である。


「艦長、針路3、1、5距離6000より大型艦4隻が接近中です!」

「何!? 敵か?」

「……いえ、友軍です、伊勢型戦艦2隻と扶桑型戦艦2隻、第二艦隊です!」

「第二艦隊……戦艦4隻だけだと? 乱戦で護衛と逸れたか……。 拙い、この先にはアメ公の新型戦艦が居る、第二艦隊へ短距離無線で状況知らせっ!」

「……駄目です、先程の米駆逐艦との交戦でアンテナが損傷し使用出来ません!!」

「何だと!? くそっ! なら発光信号……はまずいか、もっと近寄って手旗信号で……」

 吉川が思案しながら呟いたその時、第二艦隊の戦艦4隻は僅かに取り舵を取ると側舷副砲を一斉に射撃した、その砲弾は真っ直ぐ友軍で有る筈の夕立に向けて放たれた。 

 

 刹那、夕立の周囲に多数の水柱が立ち上がる、皮肉にも米戦艦とは比べ物にならない精度に命中弾こそ無かったものの友軍から砲撃を受けた事は夕立に戦慄と衝撃を与えた。


 然し米駆逐艦の攻撃を僚艦の援護で何とか躱し護衛と逸れた状態で進軍した丸裸同然の戦艦隊にとって味方が展開している筈もない針路での不明艦との邂逅は慎重にならざる得ず、状況的に友軍と考えられなかった事は戦場に置ける危機管理の観点から当然と言えた。


 米戦艦と日輪戦艦の砲火に晒された夕立は止むを得ず【撃つな ワレ ユウダチ】の発光信号を送り、其れを受け日輪戦艦隊は誤認に気付き慌てて砲撃を停止した。


 続いて夕立は米戦艦の存在を知らせようとしたが発光信号か、若しくは砲撃音によって集まった米駆逐艦3隻の砲撃に晒され一番魚雷発射管に被弾し、発射管とそれを覆う防護板の一部が吹き飛び宙を舞う。


 幸いだったのは被弾したのが魚雷を撃ち尽くした発射管で有った事だろう、もし魚雷2本が残る二番魚雷発射管であれば誘爆し轟沈していた可能性も有った。


「くそっ! 魚雷は戦艦に使いたかったが止むを得ん、左舷雷撃戦、方位0、6、7、右に4度修正、9番発射! 取り舵戻せ! 方位1、1、2、左に3度修正、10番発射!!」

 夕立は不規則な機動を取りながらも的確に雷撃の好機を逃さず魚雷を放っていく、そうして放たれた2本の魚雷は米駆逐艦の行動を予測していたが如く直撃した。


 大きな水柱が2本同時に上がり2隻の米駆逐艦は力を失い二つに折れると横転しながら海中に没して行った。


「残り1隻は砲撃で沈めるしか無いか……針路速度そのまま、距離3000左舷対艦砲撃戦、撃ち方始めぇっ!!」

 吉川の指揮の下、夕立の15㎝連装砲3基6門が一斉に火を噴き米駆逐艦の周囲に水柱を立ち上げるが同時に米駆逐艦も発砲し至近弾による水飛沫を被る。


「怯むな! 針路照準そのまま次弾装填急げ!!」

「11時方向より魚雷接近っ! 数3!!」

「くそっ! 回頭せず両舷最大戦速!!」

 吉川は避雷の基本である回頭を選ばす速力で逃げ切る事を選択し夕立は急速に速度を上げ波を切り裂き直進する。


 米駆逐艦の放った魚雷は夕立の数百メートル後方に逸れ、それを確認した吉川は速度を30ノットに戻し取り舵を20度取ると再度主砲を一斉射した。


 夕立の放った砲弾は米駆逐艦の前部主砲1基と左側舷中央を吹き飛ばし米駆逐艦は爆炎に包まれると速度を徐々に落としていった。


 その好機を逃す吉川では無く、次の一斉射で米駆逐艦は完全に沈黙し徐々に左に傾き横転していった。


「敵艦、完全に沈黙!」


 艦橋内が皆が歓声で沸く中、吉川は一人艦長席に在って眉を顰めていた。


「艦長? 如何されたのですか?」

「……何故、米戦艦の砲撃が止んだ?」

「っ!? そう言えば……」

 吉川と副長が言葉を交わした次の瞬間、雷鳴の如き轟音が複数響き渡る、その轟音を聞いた瞬間、吉川は何故米戦艦の砲撃が止んでいたのかを悟った、たかが駆逐艦一隻よりも良い獲物を捕捉したからに違いない、では戦艦にとって良い獲物とは? それは同じ戦艦それも格下の戦艦に他ならない……。


「くそっ!!」 

 吉川は自艦の戦果を喜ぶ事も無く言葉を荒げ椅子の手すりに拳を叩きつけ轟音響く漆黒の海原を睨む、『米新型戦艦を主力打撃艦隊に近づけてはならない』それが連合艦隊司令部から全水雷戦隊群に課せられた命令で有り使命であった、その使命を果たせなかった事を吉川は悟り苦悶の表情で瞳を伏せるのであった……。

 




  ~~登場兵器紹介~~


◆白露型駆逐艦


 全長160メートル 全幅16メートル 速力60ノット 


 側舷装甲20㎜VH(最大厚防御区画50%)


 水平装甲15㎜VH(最大厚防御区画40%) 


 武装:15㎝連装汎用砲3基 / 九六式五連装80㎝魚雷発射管2基 / 九五式爆雷投射機4基 / 28㎜連装機銃8基


 主機関:ロ号艦本九ニ式小型蒼燐蓄力炉・改 4基


 概要:初春型の準同型艦であり発展型、本型を更に拡大発展させたのが陽炎型である、そのため遠目には初春型、白露型、陽炎型は見分けが付きにくくなっておりよく誤認されてしまう。

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