第16記:報酬

 眼が覚めた。枕辺の時計は「朝の8時」を示していた。洗濯は昨日の内に済ませている。済ませているということは「終日家にいてもいい」ということである。食料&水の備蓄も充分である。平日は相応に慌しい。穏やかな休日(時間)こそ、俺にとっては、最大の報酬なのである。移住前はそれすらも許されなかった。バカな連中と一緒に暮らしていると、こちらの頭までおかしくなってくる。本格的におかしくなる前に脱出できて良かった。


 台所に行き、湯沸かし器にミネラル水を満タンに注ぐ。コーヒーの準備である。湯が沸くまでの間、ラジオを聴く。天気の動きが知りたかったのだ。今日は篭城に徹するとしても、明日は出かけなくてはならない。俺の主な移動手段は「自分の足」である。できれば、晴れて欲しい。雨天の外出は面倒である。俺は傘を差して歩くのが嫌いなのだ。

 コーヒーを飲みながら、チェスを指す。相手は機械(ニンテンドーDS!)である。数局やって全部負ける。吃驚するぐらい弱い。驚異的な弱さだ。どうも、戦いの進め方がわからない。やっぱり、定跡を覚えないとダメかな。


 そう云えば、俺は「チェス教室」というものを一度も見たことがない。訪ねたことはないが、我が地元商店街にも「将棋道場」や「囲碁サロン」が存在する。でも、チェスはない。知名度は高いけど、人気度が低い気がする。あなたの通われていた小学校や中学校には、チェス部はありましたか?俺はなかったですね。将棋や囲碁さえなかった。


 チェスはかなり面白いゲームだと思うのだが、日本人の嗜好や性質に馴染まないところがあるのだろうか。俺自身、やり始めたばかりで、理解が及んでいない点が多い。1500円のDSカードにも勝てないのだから、どうにもならない。

 愛機を起動させて、ぴよぶっくを呼び出し、更新作業に埋没する。ダサク2頁、ダブン2頁、計4頁を書く。作業の合間にラジオを聴く。しょこたん司会の『アニアカ』(NHK-FM)が放送百回を迎えた。ずっと続いて欲しい番組である。

 読まれる読まれないは別として、応援のメールを送ってみようかなと考えている。ラジオネームは「鍋太郎」でも構わないよね。〔5月23日〕


♞この年の夏、俺は「チェス教室」の門を叩くことになる。自宅に近いところにあり、行き易かった。アニアカには、数度メールを送信した。読まれることは一度もなかった。

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