第15記:疾風

 眼が覚めた。枕辺の時計は「午前7時」を示していた。三連休の初日である。億劫虫を懸命に振り払いながら、雑用消化に着手する。先ず雑用の親玉である洗濯をやっつける。近所のランドリーに行き、一週間分の衣類をマシンに放り込む。動かす前に持参の洗濯玉を投入する。自宅とランドリーの往復を三回繰り返す。面倒でたまらないが、土日は天気が崩れるかも知れないので、今日の内に済ませておきたかった。


 洗濯後、駅前の商店街に向かう。その道中、居酒屋『W』の女将さんと擦れ違った。簡単な挨拶を交わす。最近、店に顔を出さないので「消えた」と思っていたらしい。財政的問題が影響して、行きたくても行けないのだが、事情の説明をする時間もなく、女将さんの運転する自転車は、俺の視界から遠ざかってしまった。

 まるで、風みたいな人である。実際、女将さんは忙しいのだ。俺のような廃人と関わっていては、業務に支障が生じかねない。俺も人様の仕事の邪魔はしたくない。

 この御時世、居酒屋の経営も大変だと思う。Wは固定客を相当数確保しているので、商売が成り立っているのだと考えられる。女将さんは調理と接客を兼務している。仕事は深夜に及ぶ。食器洗いや後片づけなども、全て自分でやっている。料理の腕前も凄いが、体力的にも凄い。地元飲食街を代表する女傑の一人である。


 両替屋で現金を補充してから、斜め向かいの中華屋『S』の暖簾を潜り、昼食をしたためた。この店の料理は手抜きがない。漬物もちゃんと自分で漬けている。なんちゃってレストランが多い中、貴重な存在と云える。喉が渇いていた。冷たいビールが猛烈に呑みたくなったが、平日の昼間から酔っ払うわけにもいかんでしょう。今回は断念した。


 帰宅後、愛機を起動させて、ぴよぶっくを呼び出す。なんちゃってファンタジーの続きを書く。他にも色々欠けているが、俺には「話を作る能力」がまったく無い。人物と人物をぶつけて、その経緯や結果を追っているに過ぎない。その程度で「話になる」とは思えないし、小説はそんなに甘いものではない気もするが、それ以外の方法を俺は知らないのである。

 ダサクを2頁投稿してから、ダブンを書く。こちらはほとんど悩まない。比較的楽に書ける。日常そのものが題材であり「話を作る」必要がないからだろう。

〔5月22日〕


♞Wは今も健在だが、Sは閉業した。商売は厳しい。

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