007
説明が終わり、時が動いた。
ハイイロは消えていた。
私は泣いていた。
声も出さずに涙が落ちていた。
ケイから見たら急にほろほろ泣き始めたかのように見えたのだろう。「お、おい大丈夫か?」と柄にもなく心配の声をかけてくれた。
「ケイの言う通りだった。私は死んじゃいけなかったんだ」
私はハイイロから聞いて、実際に見たラーベルの未来をケイに話した。歌声で世界を救うこともケイに話した。
「歌声ねえ……そんなもんで世界が動くとは到底思えねえが、俺の家で一回試してみるか?」
ここは新町キャンパス食堂、ここで歌うわけにもいかない。
それに先ほど見た映像も重なって、早く何でもいいから早く物事を進めたくて、二つ返事で承諾した。
西陣。
三階建ての鉄筋コンクリートのアパート。
その一角にお邪魔した。
「さてと、何を歌うかなんだが……」ケイが思案する。
「俺の好きな歌はのぼる←さんの『ポジティブシンキング』っていう歌なんだが、PV見てくれるか?」
夢ならありません!
希望もありません!
お金もありません!
かわいい!
かわいすぎるよ! 歌詞とイラストのギャップがすごすぎるよ!
「じゃあ、歌ってもらえるか?」
私はうなずき、声に出す。
「夢ならありません!
希望もありません!
お金もありません!」
そこまで歌った時だった。
ケイがふらっと立ちくらんだ。
えっ、と思い歌を止めた途端。
私はケイに押された。
グイグイグイグイ押し込まれる。
私はグイグイグイグイ後ろ歩きで下がっていく。
やがて壁まで到達した。
それでもなおケイは私を押し続けた。
思わずしゃがみ込む私。
私は見上げる。
ケイが見下す。
ケイはそのままするするすると、私の顔の横までしゃがみ込んできた。
ケイのあごが、私の肩に乗る。
ケイは耳元でこう囁いた。
「絶対に助けてやる」
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