昔語り~カラスが『カラス』である所以~

柚月ゆう

小話

遥か昔、神代と呼ばれた時代。


そこには、純白なモノ達がいた。


天照大神と月読命が存在し、昼と夜に分けられたこの世界。


神代の動物は、皆、純白であった。


そして、皆が皆、幸せに暮らしていた。




しかし、ある日を境に、二つに分かれてしまった。




天照大神と月読命が大喧嘩をしたのだ。


この日を境に、動物達は分かれてしまった。




天照大神は昼。


天照大神についた動物達は、昼のみ活動を許された。




月読命は夜。


月読命についた動物達は、夜のみ活動を許された。




いくら喧嘩で昼と夜と分かれていても、黄昏時や暁には、お互いに会うことを許されていた。




そんな日が数年続いた、ある日。


昼に住む1羽の鳥が、夜に住む1羽の鳥に恋をした。




昼の鳥は黄昏時に家へ帰る途中、美しい音色に惹かれて探し、美しい音色に合わせて歌った。


夜の鳥は、自分の声に重なっている声を聞き、途中で歌を止めてしまった。


しかし、重なっていた声は歌い続け、夜の鳥はその声を頼りに会いに行った。


程なくして、2羽は出会い、一緒に歌った。


その日、2羽は自己紹介をして別れた。


昼の鳥は『カイラ』、夜の鳥は『スミア』と名乗り、明日会う約束をした。


そんな日が、数日続いた。




やがて、スミアは身籠った。


もちろん、相手はカイラだ。


スミアの家族は、産まれた子を殺めようと話していた。


何せ、相手はあの、憎き天照大神のもとにいる鳥だったからだ。


天照大神と月読命の喧嘩は、月読命の負けで終わり、昼より夜が短くなってしまったのだった。




産まれる子を殺めようとしていると、スミアはカイラに告げ、カイラは産まれる子を貰うとスミアに言った。


カイラには、家族が皆亡くなっていたため、家族と呼べるものがいなかった。


その為、カイラにとって、家族と住めるというのはこの上もなく嬉しいことだった。




そして数日後、スミアはカイラの目の前で卵を産み、その卵をカイラに任せた。


それからまた数日後、卵が割れ、ヒナが産まれた。


そのヒナを連れ、カイラはスミアに会いに行った。


その時に、2羽はヒナに名前を付けた。


カイラとスミアの子のため、『カラス』と名付け、カラスはすくすくと育ち、やがて美しい声で歌うようになった。




その数日後、昼の鳥と夜の鳥に子が産まれ、昼の鳥が育てているという報せが、天照大神に届いた。




すぐさま天照大神がカイラを呼ぶと、カイラに命じた。


その子を殺めよ、と。


また、こう続けた。


出来なくば、その子の美しい声は醜く、美しい純白の姿は黒く、いくら子を成しても子は親と同じ醜い声で黒い姿になるだろう。


それがお前に課せられた罪だ、と。




その後、カイラはたった1羽の家族であるカラスを殺めることは出来ず、ただ、変わってゆくカラスを見ていることしか出来なかった。




そのカラスは子孫を残し、『カラス』という名を今にも伝えている---。

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