エピローグ

……早いもので、あっという間に過ぎていったな。


俺が家を出てから、早くも一年半以上が経過した。


つまり、パーティーが揃ってから一年ほどが経ったということだ。


俺達は順調に依頼をこなして、今ではそこそこ有名なパーティーとなっている。




「さて、俺達もランクが上がってきたな」


「へい! 団長は四級に、俺も四級に、アテネも四級。イージスとホムラは五級に」


「そして、シノブ……お前は三級か」


それは、最早上級クラスである。

ひとかどの人物しかたどり着けないクラスだ。


「えへへー! 一番乗りですねっ!」


「く、悔しいですわっ!」


「ホムラさん! 落ち着いてください!」


「イージス! ワタクシ達も、さっさとあげますわよっ!」


「は、はいっ!」


「全く、相変わらず騒がしいね」


「全くだぜ。それで団長、この先はどうしやす?」


「……それより、どうにかならないか?」


つい半年前ほどから、アロイスが敬語というか……変な口調になった。


「慣れてくだせい。俺が偉そうにしてると、団長の格が下がってしやいやす」


「俺は気にしないのだが……」


「団長、諦めな」


「アテネ、お前まで……」


「そもそも、アタイにもタメ口は慣れてきただろう?」


「まあ、それはね」


敬語を使うたびに、矢を射ってくるし。


「あんたは白き風のトップなんだから。あんたがしっかりしないと、アタイ達まで舐められるよ」


「うっ……わ、わかった」


いやしかし、本当にアテネがいて良かった。

アロイスと共に、未熟な俺たちを纏めてくれている。

どうにも、俺を含めて世間知らずが多いからな……。



「それにしても、新しい領主は評判がいいみたいですぜ?」


「ああ、シャロン-グラム伯爵か」


「団長の言う通りでしたねー?」


「未だに、少し違和感があるな」


「慣れてくださいよー、もう身も心も捧げたんですから……ポッ」


「ポッ……じゃねえ! 身は捧げてないだろうがっ!」


「あれー? 間違えましたね」


「全く……」


一年ほど前から団長に呼び名が変わった。

なんでも、一人の男としてではなく、一人の人間として忠誠を誓うとかなんとか。

その辺はよくわからないが、そういうことらしい。


「オイラ達は、これからどうします?」


「そうだな……ランクを上げることに専念するかね」


この一年半は、ずっと一緒にいたわけではない。

ホムラは家の用事があり、あまり依頼に参加もできなかった。

イージスも故郷に帰ったりして、参加しないこともあった。

アロイスもお見合いに専念したり……今のところ全滅のようだが。

アテネは、妹の代わりに孤児院やスラムに行ったりしている。

俺も実家に行ったり、勉強をしたりして専念は出来なかった。


「私だけ暇でしたからねー」


「結局、故郷には帰らなかったな?」


「そもそも、帰るのめんどくさいですし。また審査を受けるのもあれですしねー」


シノブは単独で依頼をこなしていたから、一人だけランクが上がっているということだ。


「まあ、お前が良いならいいけど」


「ワタクシは、これからしばらくは専念できますわ」


「オイラもですっ! 無事に妹達を学校へ行かせることができましたっ! ありがとうございます!」


「私は、今まで通りですねー。団長のお側に」


「俺も、しばらくは見合いはしやせん……暴れたい気分ってやつですぜ」


「アタイも一区切りついたしね。孤児院も立て直したし、スラム街も良くなってきたし」


「俺も回復魔法をほぼマスターした。これ以上のランクは厳しくなると思ったからな」


俺達は少し駆け上がり過ぎた。

だから一度立ち止まる意味でも、それぞれが自由に動いた。

足元が疎かになっては、この先やっていけないと思ったからだ。


「じゃあ、いよいよですかねー?」


「ああ……本日より白き風は本格的に動くことにする! 各自、よろしく頼む!」


「「「「「了解!!!!!」」」」」


五人の声が重なる。

これからが、いよいよ本番だ。

俺も、もうすぐ爵位が貰えるところまで来ているはず……。

幸い、エリカにはまだ婚約者はいない。

何とか、間に合わせたいところだ。



その後解散して、一度家に帰る。


「おう、ユウマ」


「叔父上、お帰りなさい」


「どれ、やるとするか」


「お願いしますっ!」


稽古をするが……。


「やっぱりダメか」


「す、すみません……」


半年ほど前から、俺の剣技は伸び悩んでいた。


「まあ、この一年は回復魔法を中心にやっていたから仕方あるまい」


「ええ、そうなんですが……」


アロイスとシノブはもちろんのこと、イージスも強くなった。

だから俺は回復魔法をマスターして、みんなを守ることに専念した。


「幸い錆びついてはいない。それに、おそらく殻を破る時が近いと思っている」


「えっ?」


「あくまでも、俺の感覚だがな。何かキッカケさえあれば……」


「キッカケですか……」


「まあ、気にするな。これからバシバシ鍛えてやる」


「はいっ! お願いしますっ!」




そして、数日が過ぎたある日……。


俺達は王都を離れていた。


今は依頼を終えて、王都に帰還中である。


「いやー、久々に揃うと良いですねー」


「気持ちいいですわっ! もう、ストレスばかりで……」


どうやら、実家で色々あるらしい。

というか、未だに貴族ということを隠せていると思っているらしい。

面白いので、みんな黙っているが。


「アテネさん! どうでしたか!?」


「うん? ……まあ、悪くないんじゃないか」


この二人は特に進展はないようだ。

アテネさんも鈍感だし、イージスも奥手だし。

まあ、暖かく見守ることにする。

何より……人のことは言えないし。


「俺もどうするかね……」


流石の俺も、シノブはもちろんホムラの気持ちには気づいている。

しかし、今のところはそういった関係ではない。


「二人と結婚すれば良いのでは?」


「アロイス……俺の心を読むな」


まあ、そのためにも貴族にならなくてはいけない。

ホムラは間違いなく貴族だからな……ただ、爵位はわからない。



無事に王都に到着した俺達は、ある異変に気付く。


「ん? 何か騒がしいな」


「貴方達は白き風! 戦争にはいかなかったのですか?」


「……門兵さん、詳しく教えてくださいますか?」


「ああ、何でもウィンドルが戦争を仕掛けてきたって話です」


「このタイミングでか……」


「まだ時期じゃないと思ってやしたね」


「まあ、仕方ないよ。落ち着いているってことは、勝ったのかい?」


「ええ、犠牲は出ましたが勝利したようです」


「なら良いですねー。私達は活躍を逃しましたけど」


「こればかりは仕方ありませんわね」


「オイラ達は、遠くに行ってましたから」


「とりあえず、ギルドに報告に向かうか」



俺達がギルドに入ると……。


「ユウマ殿!」


「ギルドマスター? どうしたのですか?」


何やら、ただことではない様子だ。


「少しこちらへ」


「は、はい」


奥の方に連れて行かれる。


「良いですか? 落ち着いて聞いてください……ミストル家当主とその長男が死亡したようです」


「………えっ?」


「詳しくはこちらを。先ほど、貴方の家の者が届けに来ました」


俺は震えながら手紙を開く。


「……母上の字だ」


そこには、夫と長男が戦死したという文字が。


そして、至急帰ってきて欲しいと。


俺の感情は複雑に渦巻く。


悲しい? 嬉しい? そのどちらでもない?


そして、同時に……何かが開いたような気がする。



この時の俺は知る由もない……。


まさか、この出来事が……俺の運命を変えることを。


そして、世界の命運をも変えることを。



~第一部完~

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