44話総力戦

 作戦を立てたので、すぐに行動を開始する。


「ガァァァ!」


「ゴフッ!?」


「イージス! 一回下がれ!」


 今のイージスでは荷が重すぎる。


「は、はい!」


「アロイス! シノブ! 削れ! 時間を稼げ!」


「おう!」


「はいさっ!」


 その間にイージスに回復魔法をかける。


「かの者の傷を癒したまえ——ハイヒール」


「あ、ありがとうございます」


 立ち上がろうとするイージスを止める。


「おい、まだ動くな。体力までが回復するわけではない」


「で、でも!」


「大丈夫だ、一人じゃない。この後も、お前の出番は来る。それまで少しでも体力を回復しておいてくれ」


「……わかりました」


 イージスはその場に座り込む。


「それでいい」


 アロイスとシノブの様子を見る。


「ヤァァァ!」


「オラァ!」


「ガァァァ——!!」


 シノブが牽制、アロイスが攻撃という戦法だ。


「シッ!」


「カァ!?」


「チッ! 外したか!」


 隙をみては、アテネさんが急所を狙う。


 俺は戦闘を俯瞰しつつ、魔力を身体全体に行き渡らせる。




 そして……。


「ハァ、ハァ……」


「シノブ! もういい! 下がれ!」


「まだやれますっ!」


「アロイス!」


「おう!」


「わぁ!?」


 シノブを抱え、アロイスが後退する。


「むぅ……」


「無茶はするな。お前は、もう一人じゃないんだぞ?」


「はい……ごめんなさい」


「イージス、いけるな?」


「はいっ!」


「二人はここで待機。回復に努めてくれ」


「おう」


「はーい」


 オーガに近づく前に、一瞬だけ後ろを振り返る。

 ホムラは……額から汗を流しながら、集中している。

 さて、もう一踏ん張りか。


「イージス、守りは任せるぞ?」


「お任せください!」


「ガァァ!」


 棍棒が振り下ろされる!


「くっ!」


 半歩下がり、それを躱すが……。

 地面がえぐれている。

 一発でも喰らえば、肉塊になることは間違いない。


「セァ!」


 イージスが槍を繰り出すが……。


「グガ?」


 やはり、槍では歯が立たんか。

 俺は自分の剣の様子を見る。


「……もってくれよ。後少しだけでいいから」


 長年愛用している剣に、溜めておいた魔力を注ぎ込む。


「イージス! 攻撃するなら関節を狙え!」


「が、頑張りますっ!」


 俺は恐怖を抑え込み、オーガの懐に飛び込む。


「ハァ!」


「ゴカァ!?」


 切っ先がオーガに当たり……血が流れる。

 よし! 魔力を込めれば、どうにか傷が付く!


「オォォォ——!!」


 攻撃に全力を注ぎ、奴を削り取る!


「グガァァァ!」


 オーガは血を流しつつも反撃をしてくる。

 俺は最小限の動きのみで、それらを回避する。


「ハッ! ……何!?」


 刺さった剣が抜けない!


「オァァ!」


「しまっ」


「危ない! ガハッ!?」


 俺を庇い、イージスが吹っ飛ぶ!


「イージス! くそっ! シノブ! アロイス!」


「おう!」


「いけますっ!」


 なんとか剣を引き抜き、イージスの元に行く。


「イージス! しっかりしろ!」


「ゴフッ! ……だ、団長……」


 まずい……このままでは死ぬ。


「死なせるものかっ!」


 今の俺に扱えるかわからないが、もはや考えている時間はない。


 俺は両手を合わせ、膨大な魔力の渦を手の中で作る。


 この魔力コントロールが、回復魔法使いが少ない大きな理由だ。


 魔力を放出せずうちに留める。


 そして、自分の魔力を生命エネルギーに変換する。


 そして手と手と離すと、俺の両手は溢れる生命エネルギーで光っていた。


 そして俺は、上級回復魔法である完全回復を唱える。


 初めてだが、必ず上手くいくと信じて。


「この者の傷付いた全てを癒したまえ——フルリカバリー」


 そう唱えると、あちこち傷だらけで血を流していた身体が、綺麗に元の傷のない身体に戻っていく。


「ふぅ……なんとか成功したか」


 額から流れる汗を拭う。


「だ、団長……ありがとうございます」


「何を言う。それはこちらのセリフだ。守ってくれてありがとな、イージス」


「い、いえ……それがオイラの成すべきことです……」


 そう言い意識を失った。

 イージスはよくやってくれた。

 あとは、俺たちがどうにかしよう。



 アロイスとシノブと連携しつつ、オーガと死闘を繰り広げる。


「ガァァ!」


「あぁー! もう!」


「きついぜ!」


「もう一踏ん張りだっ!」


 そういえば、アテネさんは?

 一瞬だけ見ると、目を閉じていた。

 しかしその身体からは、静かなる闘志を感じた。

 何かを狙っているのかもしれない。



 そして、その時が訪れる。


「ユウマ!」


 待ちに待った声が聞こえる。


「いけるか!?」


「確実に仕留めてみせますわっ!」


 正直言って、みんな限界だ。

 こいつには武器類が効かなさすぎる。

 あとは、ホムラの魔法にかけるしかない。


「ゴァァァ!」


「チッ!?」


 しかし、確実に当てられるのか?

 奴は身体から血を流しつつも、大暴れをしている。


 しかし次の瞬間。


「ギヤァァァ!?」


「ようやく仕事が出来たね」


 オーガの膝を矢が貫通している。

 なるほど! これをずっと狙っていたのか!


「シノブ!アロイス!下がるぞ! ——ホムラ!」


 チャンスは膝をついた今しかない!

 俺の声に、アロイスとシノブが反応する。


「骨も残さずに消えなさい——灼熱の烈火インフェルノエクゼ


 オーガを中心に巨大な火柱が上がる!


「ゴァァァああ!? ……アァァァ……ア、ア、ァ……」


 火が収まると……そこには何も残っていなかった。


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