幕間~とある貴族の企み~

 何ということだっ!


 私が長年にわたり、少しずつ開拓したルートが……!


 兵士を買収し、商人や冒険者を誘導して、それを刈り取る。


役立たずは始末して、若い連中や女は奴隷にして高く売り。


腕の良い奴は戦闘奴隷として、他国に売りつけたり。


それらをコツコツと貯めて、ようやくこれからという時に!


侯爵になるためのばら撒き資金を確保する前にバレるとはっ!


「くそっ! 何処から漏れた!?」


 昨夜、雇った冒険者から知らせが入った。

 今、詳しい情報を集めさせているが……。


「アタイにはわからないね。それは仕事に入っていないし。無駄な殺しも好きじゃないし」


「冒険者の分際で生意気な! 何故、そいつらを始末もしない!」


「出来ないね、アレは。相当強いのが、何人もいる。気配を消して近づいて射ったのに、あの女は気づいたからね」


「この役立たずめっ! 何のために高い金を払ってると思ってる!?」


「アタイは契約書に書いたよ。自分の命が最優先だってね。アタイの任務は、バレた時にあの二人を始末することさ。それ以外は、アンタの仕事だろ? 得意じゃないか、もみ消しや隠蔽は」


「くっ!?」


 口が回る奴め……!

 人とつるまないこと、一流のスナイパーだということ。

 汚い仕事も、金さえ払えば遂行するから雇っているが……。

 しかし、潮時かも知れん……こいつも消しておくべきだな。

 どうせ、こいつにも用は無くなった。



 奴が帰った後、しばらく待っていると……ドタドタと足音が聞こえてくる。


「サウス伯爵様!」


 調査を任せた部下がやってくる。

 やっていることがアレなので、知っているのは数名のみだ。

 だから、調べるのにも時間がかかってしまう。


「どうだ!? 何かわかったか!?」


「はい! 邪魔をした奴の名前は白き風という冒険者パーティー! そのリーダーはユウマ! ミストル男爵家の次男にして、剣聖シグルドの甥っ子にして、その一番弟子ですっ!」


「な、なんだと?」


 同じ貴族に邪魔されただと?

 しかも、剣聖の甥っ子だと?

 ……ん? ミストル男爵家? 最近聞いたような……。


「ちなみにですが……ミストル男爵家の当主とは、この間お会いしました」


「なに? いつだ?」


「前回のウィンドルとの戦争にて……その後に、祝勝会と口止めを兼ねて」


「口止めとは人聞きの悪いことを言うな」


「はっ! 申し訳ありません!」


「まあ、いい」


 あの戦争を仕組んだのは事実だしな。

 下級冒険者達を囮にして、そちらに魔物を引き付けてもらった。

 お陰で、私の兵力の消耗も最小限にとどめて、他の貴族にも恩を売ることが出来た。

 平民の集まりである冒険者がいくら死のうが関係ないことだからな。


「それより、祝勝会だと? 生き残った貴族に共犯者になってもらった件か」


 あの戦争での裏の事情に気づいた輩は少ない。

 何故なら気づきそうで、これから邪魔になりそうなのは消しておいたからだ。

 戦争のどさくさに紛れてな……全く、身分不相応にも伯爵の地位を狙うからだ。

 これも伯爵の数が決まっていて、それに成り代ることが可能だからだ。

 領主であり上位貴族である伯爵は、私のような賢く高貴な者にこそ相応しい。


「その中にミストル男爵家当主と、その長兄がいたはずです」


「なるほど……うむ。消したいところだが、剣聖の甥っ子で一番弟子では手が出せまい。殺すことは却下か……限定的とはいえ、奴と私の地位は同じだ。しかし、もし奴らが暴こうとするなら……こちらにも考えがある」


「如何なさいますか?」


「まずは、ティルフォング公爵当主ターレス殿に手紙を書かなくてはな。いや、直接お会いした方がいいか? では、通達を出しておけ。もちろん、日にちはあちらに合わせると」


「畏まりました。では、失礼いたします」



 部下が出て行った後、私は思案する。


「公爵家当主が後ろ盾にいれば、もし奴らが気づいたとしても……」


 揉消すことが可能だろう。

 それに、奪った物の一部はティルフォング家に捧げておる。

 バレたら困るのは、あちらも一緒なはず。


「せっかく伯爵まで登りつめたのだ……」


 ゆくゆくは侯爵……そして、娘を王族に嫁がせれば……。


「私が宰相になることや、国王の祖父となることも不可能ではない」


 ククク……愚かな冒険者共よ。


 私の財源を潰したことを後悔するが良い。


 直接は無理だが、必ず潰してやる。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る