16話特訓の日々

 イージスと特訓を始めて一週間が経過した。


 しばらく、冒険者活動を休みにしたこともあり……。


 密度の高い鍛錬に励むことが可能となった。


 そして……今日、その成果が出始める。



「くっ!?」


「へ、平気ですか!?」


「ああ、問題ない……ヒール」


 腫れ上がった箇所を、自らの魔法で癒す。


「何度見ても凄い……無詠唱だし……」


「ヒールくらいならな。それに威力も下がるし。それより、大分慣れてきたな?人に対して思い切り攻撃することに」


 ちなみに、敬語はやめてくださいと土下座をされてしまった。

 教えて頂く身なので!と……まあ、歳も二つ違いなので気にしないことにした。


「喜んでいいのかな……?」


「難しいところだな……快楽に酔いしれることはよくないが、いざという時に大切な者を守れるように慣れておくといい」


「大切な者……」


「例えば……良くない例えだが、イージスの村が盗賊に襲われたとしよう」


「ええ!?」


「例えばの話だ。幸い、あの付近は巡回する兵士も多いからな。ただ、世の中に絶対はない。そして、その時……お前が臆したことで、大切な誰かが死んだら——どうする?」


「そ、それは……!」


「大切な妹や弟を守れずに後悔するか?」


「い、いえ! それだけは!」


「ならば鍛錬を続けよう。今の感じを常に出せるように。言っておくが……練習で100出せても、本番では半分出れば良い方だと思う。しかし、それも鍛錬を重ねていくことで差が縮んでくるはずだ」


「はい! 引き続き宜しくお願いします!」


「ああ、こちらこそな」


 そして、再び鍛錬に戻る。




 それから、また一週間が過ぎ……。


 冷やかしなどがあると集中できないと思い……。


 ひと気のない所で特訓していたが……ついにバレてしまった。


「団長……説明していただけますかね……?最近、見ないと思ってたら」


 アロイスから、ゴゴゴと効果音が聞こえるようだ……!


「す、すまない……」


「お、オイラが悪いんですっ! 人がいると集中して鍛錬ができないと思って!」


「イージスだったな?」


「ヒィ!? は、はい……」


「団長、前にも言いましたが……」


「いや、アロイス……少し待ってくれ。イージス、アロイスと戦ってみろ」


「あぁ?」


「え!?」


「ほら、俺がいるから安心しろ。死なない限りは治せるからさ」


 とりあえず説得をして、イージスとアロイスが対峙する。


「チッ、仕方ねえな。ほら、かかって来いや!」


「は、はい! ……ハァァァ!!」


 気迫を込めた一撃が繰り出される!

 よし! 良いぞ! スピードもある!


「なにぃ!?」


 アロイスが咄嗟にガードする……が。


「え……?」


「……俺が力負けした?」


「どうだ、アロイス。こいつは役立たずの臆病者か?」


「……いや、違う。こいつは……訂正するぜ」


「お、オイラが……? あの新人から鬼と呼ばれているアロイスさんを……」


「おい、イージスと言ったな?」


「は、はいっ!」


「俺は、まだ認めない」


「はい……そうですよね」


「だが、そのチャンスを与えないほど薄情でもない。何より、団長が求めているからな」


「えっと……?」


「つまり……お試し期間として、明日からパーティーを組むぞ」


「アロイス、ありがとな。イージス、とりあえず明日からよろしくな?」


「え……? お、オイラを……?」


「お試しだからな? 命を預けられないと思ったら……」


「はいっ! 頑張ります! よろしくお願いします!」


 こうして、ひとまずパーティーを組む流れとなった。


 さて……ここからが本番だな。




 その翌日、早速依頼を受けてみる。


 内容はゴブリン退治に決めた。


 これなら、イージスが足を引っ張っても……平気だと思ったが……。


 そう上手くはいかないようだ。


「おい!?」


「ギヤキャ!」


「ヒィ!?」


「チッ! オラァ!」


「ゲゲェー!?」


 イージスがびびって動けないので、アロイスが代わりに始末する。


「イージス! 慌てるな! 食らっても大したダメージにはならない!」


「で、でも……」


「俺はいくらでも付き合う! さあ、もう一回だ」


「は、はい!」



 その後も続けるが……。


「はぁ……」


「団長、こいつはダメですぜ?」


「アロイス、決めつけるのは早い。すまないが、もう少しだけ手伝ってくれ」


「頭をあげてくれ! 全く……お人好しですな」


「ユウマさん……オイラのために、頭を下げて……」


「当たり前だ。俺がアロイスに頼んでいるからな」


「なんで、オイラのためにここまで……?」


「俺は役立たずなんていないと思っている。それはただ単に自分の得意分野を見つけられなかったり、人より少し成長が遅かったりするだけだと思う。そして、俺はイージスがそれだと思った……そして、俺は強いやつより——強くあろうとする奴が好きだからだ。イージスがその意思を持っている限り、俺は力を貸そう」


「ユウマさん……」


「しゃーねえ! おい! やるぞ!」


「は——はいっ!」



 だが……そう簡単にいったら苦労はしないよな。


「ハァ……ハァ……」


「ゼェ……疲れたぜ」


「うーん……怖いか?」


「す、すみません……」


「謝ることはない。ただの疑問だから」


「こ、怖いです……いや、大して痛くないのはわかっているんです。でも、どうしても身体が動かなくて……」


 ……よし、荒療治になるが……これしかないか。




 その後、ゴブリンが現れるが……。


「ギャキャ!」


「うわっ!?」


「チッ! まだダメか!」


「アロイス! 動くな!」


「なに!?……わかったぜ」


「ユウマさん……?」


 俺は武器を捨て、イージスの後ろに立つ。


「さあ、イージス。お前の後ろには誰がいる?」


「ユウマさんが……オイラが大好きな……」


「ギャキャ!」


 ゴブリンが迫ってきている。


「ありがとな。その俺は、今無防備な状態だ。お前が避けたり、びびったらどうなる?」


「……ユウマさんが怪我を……」


「俺はお前を信じる……だから——ここから動かない、なにがあろうともだ」


「ギャキャー!」


 もう目の前まで来ている……さあ、どうだ?


「オイラを信じる……そんな人、今まで誰も……」


「お前は自分を信じなくていい、その代わりに——俺が信じるというお前を信じろ」


「ユウマさんを……」


「ギャキャ!」


「ウ、ウワァァァァ——!!」


 渾身の一撃が放たれる!


「ギャ……ガ……」


 その一撃はゴブリンを粉砕する。


「おし!」


「よくやった!」


「オ、オイラが……? これを?」


 ふぅ……ヒヤヒヤした……。


 どうやら、賭けは成功したようだな。

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