ある日突然6




 高校生2人が、ブランコに乗って話し込む。周りから見たら変な光景なんだろう。

 けど、そんなのお構いなしに俺達はひたすら話していた。


 その度に笑った。

 その度に恥ずかしくなった。

 その度に懐かしい気持ちが心を満たす。

 だからこそ、話題が尽きることはなかった。


 こうしてみると、改めて凄いよな? 隣居るのは女優のティー・キュロチャーチ。しかも小さい頃出会ってて、こうして話が出来てる。これってかなり凄いよな? 


 ……ん? けど、そういえばなんでこのタイミングで、フェリシティはわざわざ日本に来たんだ?


「あっ、フェリシティ?」

「なにかな?」


「そう言えばさ? 俺に会いたいって言っても、どうしてこのタイミングで来たんだ? それもわざわざ日本の高校に」

「えっと……それは……」


 その瞬間、フェリシティの顔が赤くなる。

 ん? なんだろ? なんか前も顔が赤くなったような……


『あの、転校して来た日になんで俺にあんなことを?』

『えっ? 転……はうっ……』


 あっ、あの時だ。そうだ、転校して来た日の、あの行動のこと聞いた時だ。ということは、あの行動が関係してる? てか、そもそもなんであんなこと……


『――――――サンチャン!!』


『プッ、プッ……』

『プ……プロポーズだぁ!!』


 ……いや有り得ないだろ? どうせ天童が勘違いしただけだろうよ。


「うぅ……その……その……そっ、そうだよ!」

「えっ?」

「私は、約束を守る為に来たんだよっ! さんちゃんと……」


「結婚するって約束っ!」


 ……一瞬時が止まる。俺も、あまりに突然のことで思考が追い付かない。


 ん? なんて? 約束? けっ、結婚って言った? いやいやいやいや……


 しかしながら、顔を真っ赤にし何かを決心したようなフェリシティの顔は、冗談を言っているようには思えない。


 えっ? タンマタンマ。しかも約束? そんな約束……いや、フェリシティが言うなら間違いないだろ。いつだ? いつそんなことを……思い出せ思い出せ……


「だって、私が帰る時……約束したんだもん」


 帰る……時……


 その瞬間だった、目の前のフェリシティがいきなり小さくなる。それどころか、目を擦りながらグスグス泣いている。


 そんな光景を前に、慌てふためく俺の意思とは裏腹に……


『なっ、泣くなよティー!』


 何処からともなく威勢の言い声が聞こえてきた。

 はっ? ティー? ってことは目の前の子はフェリシティ?


『ダッテ……ダッテ……』

『ほら! これやるよ! 変身ベルトだ!』


『エッ……』

『これさえあれば怖いものなしだ。絶対にに強くなれる! だろ?』


『デッ、デモコレハ……』

『良いんだよ! ほら!』


『サッ……サンキュー』

『なっ? 持ってるだけで元気出るだろ?』


『ウッ……ウン!』

『おっ、やっぱティーはその笑顔が一番だ』


『フフッ。アッ、アノネ? サンチャン?』

『ん?』


『オネガイガ……アルノ』

『おぉ、なんだなんだ?』


『コレハダイジナヒトニダケスルオネガイ。ソウオシエテモラッタノ。ダカラ、サンチャンニ……』

『おっ、おう』


『アノネ、サンチャン。ショウライワタシト……ケッコンシテクダサイ』


 はっ? えっ? 結婚!? まてまて、これってフェリシティがイギリスに帰る時の記憶だよな? その時にこんな……


『けっこん? なぁに言ってんだよ! 言いに決まってるだろ?』


 えぇ! おい! 何軽々しく言ってんだよ俺!


『ホッ、ホントウ?』

『おう! 俺とティーの絆は固く結ばれてるんだ!』


 なっ……マジか? 何言っちゃってんだ俺。結婚って……はっ! もしかして約束ってこの時のやつか!? にしても、そんな約束を律儀に……


『ウン!』

『当然だろ!? バトルレンジャーは嘘付かないんだ!』


 何がだよ……ったく、調子良すぎじゃねぇか俺……ってか、なんか引っかかるな? なんでここでバトルレンジャーのこと言ってんだ? 


 バトルレンジャー? なんか当てはまることあったか。確か、メンバーはバトルレッド、ブルー、イエロー、ピンク、ブラック。それぞれの絆を武器に怪人達と闘うだったな? 絆? まてまて小さい俺、さっき言ってたじゃん、絆は固く結ばれているって! 


 嫌な予感がする。とっ、とりあえず続きはなんだったっけ? 確か更なる決意の証として、メンバー同士が結魂けっこんすることで更なるパワーアップをすると。


 ん? けっこん? 結魂? 結婚?


 ……これじゃねぇか!


「さんちゃん?」

「うおっ!」


 あれ? フェリシティが大人になってる? って、現実か? なんか幻でも見てる気分だった! けど、妙にリアルな幻だな? てか、むしろあれは……フェリシティが帰る時の記憶だろ。


「あのね? 私、約束守る為に来たんだよ? だから、あの日……さんちゃんの姿見てつい嬉しくなってね? そっ、その……皆が居る前でプロポーズしちゃったの! キャッ!」


 ……この瞬間確信に変わったわ。当時の俺が結婚と結魂を勘違いして、快くオーケーした。フェリシティはその約束を律儀に守り、わざわざ日本に来た。


 だったら、あの転校して来た日……突然の行動の意味が分かる。って……マジかよ!! やっぱあの時プロポーズしてたのか! 


「そうなのか? 流石にあの時何て言ったかは聞き取れなかったよ」

「だよね? 思わず英語で言っちゃったから、誰も気付いてないと思うけど……でも、でも! 気持ちは変わらないから!」


 天童ゴメンな疑って!


「そっ、そうか。なんかフェリシティばっかに無理させてる気がするよ」

「全然だよ。だって、さんちゃん思い出してくれたもん。私もさ? ちょっとテンション上がり過ぎてた。さんちゃんも私のこと気付いてくれてるって思っちゃって、グイグイ行っちゃって。だから、覚えてないって知った時に、急に寂しくなって……今思えば、さんちゃんは私の名前知らないのにね? それく位考えればすぐ分かるのに……振り回してごめんなさい」


「いっいや、なんで謝るんだよ! 元々、全部忘れてた俺が悪いだろ?」


 ……そうだ。フェリシティが悪い訳じゃない。全部忘れていた俺が悪い。

 たぶんテレビに映るフェリシティっていうか、ティーの顔を見て本当のことを言ってたんだ。けど、母さん達に怒られて、有り得ないって言われて……自分の記憶が信じられなくなったんだよな。その時点で……弱かった俺が悪い。


「そんなことない。今こうして隣にいて、あの時みたいに話が出来てるのなら、何の問題も無いよ?」

「フェリシティ……」

「ねぇさんちゃん……」


 それは一瞬だった、フェリシティの表情が一気に色っぽく変わる。普段のギャップもあってか、その艶やかな表情を目にした途端、心臓の鼓動が一際大きく波打つ。


 なっ……色々と……


「私、来たよ? 約束守って来たよ? だから……だから……」



「私と結婚してください」



 ヤバすぎる!


 面と向かってのプロポーズ。その破壊力はとんでもない。

 ハートを射抜かれるとは、まさにこのことだろう。一瞬心臓が消し飛んだかと思う程の衝撃が突き抜ける。


 やべぇ……やべぇ……驚きと焦りで頭がついて行かない。

 まさかのタイミングで、憧れの存在からのまさかのプロポーズ。正気を保てるわけがない。


「おっ、俺で良いのか?」


 そして何より……


「うん。さんちゃんじゃなきゃダメ」


 ここまで俺のことを思ってくれていたことが嬉しい。


 俺にはもったいない美少女だと思う。でも……だからこそ、その気持ちに答えたい。だから、俺の答えは……


「嬉しいよフェリシティ。でもさ、いきなりだと流石に急な気がするんだ」

「それってどういう……」


「あぁ。だからさ? まずは……恋人からスタートするのはどうかな」

「恋人……」


 何も知らなかった俺が言うのはおかしいのかもしれない。

 ただ、フェリシティのお陰で俺達はこうして再会することが出来た。だったら次は、俺がフェリシティの為に行動する番なんだ。


 たくさん笑って、たくさん思い出を作って、12年分の埋め合わせをする。そうしてお互いがお互いを知り尽くしてからでも……十分大丈夫だと思った。


「それって、ずっと一緒に居てくれるってこと?」

「当たり前だろ?」


 これからはずっと一緒に居る。そんな確証が……あったから。


「ふふっ。その言葉を聞いたら……安心しちゃった。そうだよねいきなり結婚は早いよね」


 そういって、見せるフェリシティの笑顔はやっぱりとんでもなく可愛い。


 だからこそ、俺はこの場で誓う。



 この笑顔を、ずっと守るって。



「結婚は早くても、恋人同士ならこれ位はしても良いんじゃないか」

「えっ?」


「フェリシティ……」

「あっ……さんちゃ……」



 チュッ











 拝啓

 若かりしバトルレッド様。


 あなたのお陰で12年後、平凡で平和で平穏だった日々は突如として一変します。

 まぁ色々ありましたが、ことの発端を挙げるならこうでしょう。




 ―――ある日突然、金髪美少女にプロポーズされまして―――



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ある日突然、金髪美少女にプロポーズされまして 北森青乃 @Kitamoriaono

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