愛の国

忍野木しか

愛の国


 愛を楽しむ国の人々。朝日は霧の山に昇る。

 男たちは声を上げて笑った。永遠に続く友情。

 老人が独楽を廻すと子供は楽しそうに踊った。花を愛でる女の隣で友人は酒を飲む。

 朝露が雑木林を水滴で飾る。涼しい太陽は愛の人々の寝ぼけ眼に柔らかな光を当てた。

 友人を愛する彼らは自分を愛した。愛の国に満たされる笑顔は虫を起こし、命を育んだ。

 

 愛を信じる国の人々。日輪は緑の山に差す。

 男女はお互いの目を見つめた。永遠に続く恋慕。

 男が林檎を齧ると女は衣服を脱ぎ捨てた。粥を啜る妻の隣で夫は酒を飲む。

 陽炎が草原に城を作る。眩しい太陽は愛の人々の情熱の瞳に乾いた薪を焚べた。

 異性を愛する彼らは自分を愛した。愛の国に満たされる願いは花を咲かし、命を育んだ。

 

 愛を与える国の人々。斜陽は暮の山に染む。

 親子は手を握って帰路に就いた。永遠に続く慈愛。

 子供が絵を描くと母親は涙を流した。静かに眠る子の隣で父は酒を飲む。

 落陽が地平線に影を伸ばす。暖かい太陽は愛の人々の目の奥に澄み切った空を見た。

 子供を愛する彼らは自分を愛した。愛の国に満たされる想いは天を動かし、命を育んだ。


 愛を求める国の人々。太陽のない夜の山。

 人々は全てを愛した。永遠に続く愛情。

 旧友に誘われた老人は独楽を廻す手を止めた。夫は若い女に愛を与える。母親は隣人の泣く声に子供を置いて家を飛び出した。残された者は空になった酒瓶に水を注ぐ。

 夜陰が愛の国を静けさで包む。見えない太陽の愛を求めて人々は溢れる涙に願いを込めた。

 他人を愛する彼らは自分を愛した。

 自分を愛する彼らは他人の愛を求めた。

 友人は別の友人と笑い合う。

 若い異性を愛す夫を愛す妻。

 愛を求める声の元に走った母の背中は遠い。

 愛の国に満たされる愛情は、命を育んでは消えていった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

愛の国 忍野木しか @yura526

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

同じコレクションの次の小説