第3話「【気】の力?そんなもの信じてるの」

その三「【気】の力?そんなもの信じてるの」


架空格闘業界では【気】の力が一大勢力です。手のひら辺りから気の塊を飛ばせないもの格闘家にあらず。

一方【双截拳】にはそうした技はほとんどありません。一対多数で戦う乱戦において悠長に気を練っている暇なんざない……とも言いたいのですが、もう一つ重要な要素があります。

「その【気】の技、あなた教わって使えますか?」

私見ですが、ある格闘技が最強を謳うためには人に教えられなくてはなりません。

仮に世界最強決定トーナメントなんてものが実施されて優勝者が決まったとしても、それは優勝者個人が強いだけです。

技が次の世代に継承されていく教授の方法を持ち、正しく教われば弱いものは強く、強いものは更なる高みに到達する……それが格闘技には求められます。


さてこの手から気を飛ばすなんて超常の技は弟子の方には極度の才能が要求されますし、師匠の方だって一子相伝ばりにごく少数の弟子と寝食を共にするレベルで教えなくてはなりません。

かたや【双截拳】はどうでしょう。自前の道場を持ち、核戦争後の荒廃した世界で門下生を使って自警団を結成しています。さらに言えばオープニングで誘拐される女性=マリアンは双截拳の女子部師範代です。

女性であっても実戦的な格闘技として身に着けることができ、新撰組の試衛館や中国武術の鏢局の様に戦闘集団として機能する門弟を持つ。

【双截拳】は一振りの名刀よりも百本の槍を揃えるべしと言った戦国の気風を残した武術であると評価できます。


「そうは言っても、最強を名乗るんだったら派手な必殺技とか見てみたい」


それでは【双截拳】最強の技をお見せしましょうか。

【爆魔龍神脚】!

おどろおどろしい名前のこの技は膝をつき、また伏せた状態から超絶の威力を持つ飛び膝蹴りを浴びせる技です。

何故この技が高威力なのか。その秘密はリー兄弟がダウン状態にある時のみ【爆魔龍神脚】が発動できると言うところ。そう前回お話した肘打ちと同じ相手の虚を突く術理なのです。

ようやくの事で難敵リー兄弟を葬り去った…相手の胸に安堵と興奮が走ります。

武術においてもっとも大切なもの残心が失われたその一瞬を断つ、これが奥義です。


地面の反動を利用して一気に跳ね起きて、相手を下から膝で蹴り上げる。

敵の虚を突いた動きに加えて、地面からの打撃と言うのは多くの格闘技では想定されていません。

また下から上の打撃と言う奴はまともに入れば衝撃の逃がし様がありません。アッパーカットしかり、押さえつけての膝蹴りしかり。

そして下からの膝で狙いやすい場所は金的、鳩尾、そして顎といった、どれも一撃必殺となる急所ばかりです。

つまり「①全力の打撃が②油断しているところに③見えづらい角度で④急所を狙って飛んでくる」

【爆魔龍神脚】はまさに理屈で説明のつく必殺技なのです。


もちろん、この奥義が有効なのはリー兄弟が瀕死の重傷を受けながらも相手の【虚】を冷静に見定めて、最後の一瞬まで燃えるような戦意を失わないからこそ。

そうした心構えこそが【双截拳】の【気】の力なのかもしれません。






  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る