女子会

「第一回小依さんの部屋女子会!」

「俺は男だ」

「女子より心弱いし女の子みたいな物でしょ!」


 唯依はやけに張り切った様子でエプロンを付けていた。小依先輩の借り物で、若草色だ。似合ってはいるが、彼女は料理ができるのだろうか。甚だ不安である。数年前は上手かったが、腕が錆びつくには十分な期間だろう。

 その点、小依先輩には何の不安もない。万能の擬人化みたいな人だ。ずーっと挙動不審だしエプロンの後ろ紐を結べずに唯依にやってもらっているが、料理はできるはずだ。


「な、なぁ唯依君? 私としては、女子会なんてそんな――」

「でも嫌じゃないんですよね! ところで先輩は何作りますか?」

「無視かぁ。えっと、クリームシチューの予定だよ。アレルギーでもあるかい?」

「大丈夫です。私もお手伝いしますね! でも、火はどうするんですか?」

「家庭科室が隣だろう? それを拝借してるんだ……そんな不安そうな顔をしないでくれよ、瞬君。校内には誰も残ってない。片付ければ文句は言われない」


 今更と言えば今更だ。何せ最終下校時刻を過ぎてから荷物を担ぎこんでも咎められなかった。


「あ、ちなみに瞬は不器用なので包丁渡さない方がいいですよ。でもお皿は洗ってくれますから」

「それは心強いね。手が荒れるから好きじゃないんだ」

「ですよね! というわけで瞬もちゃんと動いてね」

「何でお前が仕切ってるんだ。まあ、やるけど。すみません先輩、こんなのも連れてきて。俺のミスです」

「いや……賑やかで良い。まさに青春って感じだね」


 噛み締めるような口調で、まるでタイムスリップしてきたかのようだった。随分老成した、あるいは疲れ切ったように聞こえた。唯依すら何も言わない。

 不意に訪れた沈黙。妙に気まずいのを打ち払うように、彼女は微笑を浮かべた。


「私も、少しくらいは青春しなきゃいけないからね。ありがとう」


 俊敏な動きで唯依が寄ってきて、耳打ちした。


「これ可愛くない? 後光が差してるんだけど。青春をお届けしたくなった」

「止めはしない」

「言質取ったからね」


 小依先輩はきょとんとした顔でやり取りを見守っていた。唯依が気持ち悪いくらいの作り笑顔を浮かべた。


「あのー、小依ちゃん?」

「え?」

「一緒に料理しようね!」

「あ、うん。そう、だねえ?」

「私のことは唯依って呼んでほしいな」


 助けを求める視線に、俺は首を横に振って応じた。顔が引きつっていくのは見ていて飽きない。理知的な印象に反し、結構感情豊かでわかりやすい。少なくとも彼女も嫌がってはいない。


 2人の手料理は美味しかったが、唯依の手が入ったせいで”小依先輩の手料理”感がなく、あまり緊張しなかったとだけ言っておこう。

 こうして唯依主催の女子会は、俺たちの距離を大幅に縮めたのだった。

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