第53話:独り:誰のためでもなく、私のために

昼、私は、中庭に出て、一人、メシを食った。

別に教室が、居心地が悪かったわけじゃない。

一人で食いたかったんだ。

私の庭。

私の空気。

私の太陽。

けっこう一人のメシも美味うまいじゃん。

みんな、一人弁当を頬張ほおばる私を変な目で見てる。

私はまったく気にならない。

それより、オメエら、美味うまいか?。

こっちは、それほど悪いもんじゃないよ。

まあまあの出来だ。


西野たち5人による直接的なイジメはんだ。

しかし、困ったのは周りの生徒たちだ。

今まで西野が怖くて私を無視していた。

しかし、突然、お山の大将が「やーめた」と山を下りたのである。

どう対処していいのか分からない。

昔の湾岸戦争の時の中立国みたいだ。

米国と多国籍軍は戦争をめたけど、イラクと石油外交を始めて良いのか悪いのか分からない。

アメリカの許可なくして中東の石油は買えないからな。

西野がイジメをめたからと言って、いきなりてのひら返したように「ごめんね」と近付くわけにもいかないだろうし。

私も、いちいち振り向いて、改まって、今日から仲間に入れて、と言うつもりも無い。

停戦か休戦か終戦なのか分からない。


私に限っては、少しの間、アナーキーな状態が続いた。

みんな、ネタ合わせをしないで人前で漫才やってぎこちなくスベる気まずさ。

私は構わない。

一人でメシ食って、一人でバレーのトス上げて、一人でトイレに行く。

それだけだ。

まあ、退屈と言えば退屈かなあ。

何人かが、西野の「にらみ」を恐れずに話し掛けてきた。

こういう人たちとは、これから先も長い付き合いになるかもしれない。

こっずかしくてムズかゆいけど、何だか捨てたもんじゃないなと思った。

私もそんなに深みにまってなかったってことか。


昼休み、一人裏庭で寝ていると、演劇部を辞めた3年の生徒たちがよく話し掛けてきた。

一緒に西野と闘わずに、退部したことをびた。

それから、2年生が何だかよくしたってきた。

もう一度芝居をやりたい。

ギターを教えてほしい、とはしゃいで私をもちあげる。

「西野先輩たちに一人で歯向かっていた先輩はエライ!」

ちょっと待てよ。

勘違いすんな。

私は、別に、英雄になりたくて西野たちに反抗したわけじゃない。

石堂くんとセックスできなかったからやったんだ。

まあ、当然、私は、そんなこと言わないけどね。

とにかく、誰にもびず群れようとしない姿勢でいると、何だか周りから一目いちもく置かれるような存在になってしまった。

西野たちのイジメに耐えきって乗りきったという、ある種の評価だろう。

悲しいかな、やっぱり暴力への畏怖いふのようなものだとは思うんだけどね……。

でも、それはっせえな。

仕返しされてビビってんなら始めッからイジメなんてするなよって話だ。

意味のないイタチごっこなんだから。

(つづく)

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る