第47話:動機付け:とにかく裏付けがほしい

人の洪水。

黒いケバ立つホコリ。

せた原色の広告。

救急車のサイレン。

排気ガスの二酸化炭素くさい肉まんのにおい。

久々の街の喧騒けんそうだ。

古い干乾ひからびた皮膚がバリバリ割れめくれて、新しい肌に風が当たる。

私は考えた。

どうやるか。

殺すか?。

あんな奴のために人生棒に振るのはマヌケだ。

ケンカ。

5対1、この間やった通り。

イジメ返す。

体制をひっくり返せない。

そんな時間ない。

私は街の刺激を受けながらヒントを探した。

1時間ほど街をうろついていたら、選挙の街宣カーにぶち当たった。

選挙……。

政治家。政治。公認。非公認。除名。平伏ひれふ……。

これだ。

と言うよりこれしかない。

こぶしが無理ならおどしだ。

圧力だ。

これだって立派な暴力だ。

私は学校で内密にイジメられた。

だから、私も西野に、私と西野との内密の中で恐怖を味あわせてやる。


私は自室に戻って、演劇部の緊急連絡簿で西野の住所を調べた。

まだ4時。

今日、行ける。

急いで制服に着替えた。

心臓がバクバク言っている。

指先が震えてブラウスのボタンが上手くまらない。

ふと鏡に顔が映った。

ムーッと唇をらせて、鼻の穴がモワッとふくらんでいる。

下品な顔……。

本当にやるのか?。

やる!。

このままじゃ腹がおさまらん。

自分自身に即答できる。

震えが止まる。

パンパンッと両手で顔をたたいて逆に自分を痛めつける。

耳を起きまさせる。

お尻をキュッとさせて背筋を伸ばす。

フンッと勢いよく鼻息がき出した。

部屋を見まわす。

何を見つめても頭に入らない。

やるんだ!。

やっちまえ。

傷つけてやるんだ!。


電車で西野の家に向かう。

ブルブルッとおしっこのときの震え。

胃がキューッとしびれて猫背になる。

身体が、握り締めたすずのようににぶふるる。

窓の景色が止まっている。

がくの絵のよう。

何見てんだろう?。

何も聞こえない。

中刷り広告。

ベンツ700万。

ベンツ買いたい。

何考えてるの私。

すごい息してる。

でも、酸素が足りない。

走りたい。

じっとしていたくない。

私を取り囲む世界をやぶりたい。

私は立つ。

先頭から最後尾さいこうびまで一直線に電車の中をっ切る。

宇宙。

人が星のように流れ去っていく、座席も空いているのに。

みんな、私を不可解な目で見る。

でも、私は歩く。

先へ先へ。

足は前へ。

行くんだ西野の家へ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る