第46話:器用者:世の中、許せないヤツがいる!

午後、水谷が、早退して見舞に来てくれた。

私は、4日も休んでいる自分のことが話題になっているかどうか、それとなく聞いてみた。

「文化祭が終わったので、困っている人はいない」とだけ水谷は言った。

トホホ。それだけの情報じゃ……。

部長……。気をつかって言ってくれたのかな?。

まあ、依然いぜん部活以外ではイジメは続いているだろう。

私は、校内生活で何か変わったことはないか、と少しツッコんでみた。

いつもと変わらない、と言う。

あと、ビラ事件の犯人が見付からなくて、教師たちが落ち込んでいるらしい。

ビラについては、西野は何もアクションを起こしていないようだ。

まあ、そうだろう。

ビラ事件のことを学校側に言わない代わりに私をリンチに掛けたんだから。

西野がぶちまければ、私は焼却炉でやられたことを言う。

今のところ釣り合っている。

私は「そう」とだけぼんやり返して、そのあとは踏み込まなかった。

水谷は照れくさそうに嬉しそうにソワソワと含み笑いをして私に進路のことを話した。

大学へ行っても芝居を続けたいらしい。

演劇関係の芸術学部のある大学を目指すという。

「みんなには黙っててね」

水谷らしくなく、恥じらいながら甘えてウフッと笑った。

進路か……。

私は西野のことが気になった。

理系の偏差値の高いところを目指していることは聞いたことがあるけど、どこ狙ってるんだろう?。

きっと小洒落こじゃれたところへでも行って女子アナでも目指すんだろう。


「アメリカへ留学するって。お父さん、外務省の人なんだって」


水谷が、ニッコリほがらかに言った。

おったまげた!。

アメリカ?。

予想の範囲を超えてるよ。

帰国子女ってわけか。

どこまでも要領のいい人生だ。

外務省の親父。

あいつ、金持ちで人イジメてたのか?。

何でそんな必要が?。

ヒガミや生活の不自由があるわけでもあるまいし……。

たぶん、イジメてるなんて意識は、あいつには無いんだろうな。

自分大好きで、その価値観に絶対的な自信を持っていて、

それにそぐわない邪魔な人間を、

つまり私や今岡を排他はいたしていくんだろう。

自分を生きやすくするために、自分を住み心地のいい環境に置くために。

まあ、自分なりのモラルや価値観を持つのは構わないよ。

でも、だからと言って、周りを暴力的な威圧でじ伏せるのは許せない。

そんなに自分が好きなら、他所よそで一人で生きてくれ。

それに、世渡り上手ときてやがるから、なおさら性質が悪い。

現に、明るく気が利いて、教師たちに肩をたたいて冗談が言える西野は、学校側にウケがいい。

私にはできないや。

そんな小器用な生き方は。

アホな私は、あいつを痛め付けて、その代償として社会から制裁を受けるしかない。

自分の手をよごさずに、あいつに一矢報いっしむくいるやり方は考え付かない。

そんな人脈もない。

とにかく、許せない。

メラメラきた。

いつまでも寝てられっか。

報復しないと。

私は、水谷にビールを買ってきてもらって飲んだ。

一気に血圧が上がり、血がグルグル廻って、気持ちが疾走しっそうしているのが分かった。

やってやる。

私は、水谷を見送るついでに、なまった身体を動かしに街へ出た。

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