第20話:ヤケ酒ギター:二日酔いの代償はデカい

次の日。

私は、浅倉との立ち稽古けいこがあったが、

シカトしてスタジオにギターをきに行った。

チューニングのギュイーンという、アームのクワーンという鳴きは、エレキだけが持つ声だ。

プラグを指し込むときは、何百回、何千回やってもワクワクする。

もう焦って電源入れたまま差し込んだ。

差し込む時の、電流が流れ込む瞬間のボワッというアンプがうねりはじめる音は、まさに命が宿る瞬間だ。

サーッと麻酔がく感じ。

クール&ザ・ギャングの『Funky Staff 』。

こんな淀んだ気分はソウルではじき飛ばすんだ。

汗が身体からだの芯からき出す。

ピョンピョンッと身体がねる。

踊りながら弾く。

おもーいき物が取れる!。

世の中には一人エッチよりスッキリするものがあるんだぜ!。

パタパタと両足がかろやかに床をステップしていく。

右から左へ、すばしっこく泳いでいく私。


夕方、そのお祭り騒ぎの足取りで部室に寄った。

灯りが点いている。

まだ、稽古をやっていた。

冷やかしの気分で、はしゃいでドアを開ける。

気分が上がっている。

適当に謝ろうと、首をヒョイッとのぞかせる。

蛍光灯の白い光が目を刺した。

瞬間、浅倉が泣き付いてきた。

「どこ行ってたんだよぉ……」

 な、なんだ?、ヒモみたいに。

「今日、稽古だったじゃないか……」

 眉毛まゆげしおれて八の字になっている。

「ああ、ちょっとね」

 私は、わざと余裕をぶちかます。

「困るよお……」

 だろうな。あそこはお前さんの見せ場だ。

 でも、天然だか確信犯だか知らないが、お前のそのはっきりしない無責任なスタンスが多くの犠牲者を生んでいるんだ。

 いい加減、気付けよッ。

「どこ行ってたんだよ……?」

 帰りの遅い母親を待つカギっ子のように浅倉が聞きやがる。

 でも、そう見えるのは私だけ。

 どうせ西野派の連中には相変わらず男前に映っていやがるんだろうな。

「ちょっとバンド」

 私は、調子に乗って、わざとまわりを刺激するように言った。

「ほんとなの……」

 水谷の深い声。

 まるでドヒャッと頭から冷水!。

 身体がキーンと固まった。

 ショックで声が出ない。

「うん……」

 水谷が冬の空みたいに曇った。

 みんな、止まっている。

 水谷派の連中も裏切られたような悲しい目をしている。

 私は、ここへ来て、初めて申し訳ないことをしたと思って、自戒じかいを破ったことを後悔した。

「どうして……」

 水谷が優しく聞く。

 こたえるな……。

「なんか、難しいところがあったみたいで、どうしても教えてくれって言うから……」

「そう……」

 平板へいばんな口調だが、中はドロドロ重い。

「たのむよ、あそこは見せ場なんだからさ」

 浅倉一人オロオロ。

 オメエは引っ込んでろ!。

「八坂さんたちに手伝ってもらえばいいじゃん」

私は、わざと聞こえるように投げやりに言ってしまった。自棄やけが入っていた。

すると、ピキーッとガラスに「えぐひび」が入るような緊張が走った。

みんな、一斉に私を見る。

西野たちがにらんでいる。

「あそこはギター弾ける人じゃないとできないよ」

浅倉が実にほがらかに言う。

私は黙る。

これは失言だった……。

でも、後悔はしていない。

これくらいの皮肉も言ってやりたい。

それくらい限界なんだ、こっちだって。

「何かあるときは連絡してね」

水谷が、高僧こうそうが子供のわがままを微笑ましく受け入れるように言った。

みんなの固まった視線が、なんとかゆるやかに他所よそへ流れていく。

でも、一つだけ流れない視線がある。

睨んでるなあ……、西野……。

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