第10話:今日のシメ:最低の行為をしてやる

借家。

誰が設計したのか分からないが、えない家だなあ……。

人に誇れるほどのデザインも機能も無い。

かと言って、親戚がホテル代かすために泊まるくらいの部屋はある。

私にはおあつらえ向きなのかもしれない……。

母が、早く着替えてメシ食え、とかったるそうに言う。

父が珍しく残業の無い日なので邪魔臭くてしょうがないのだ。

リビングでビール。

くたびれたスウェット。

黄ばんだTシャツ。

襟元えりもとからみつくほつれ糸。

父は、ダイニングで食事をしない。

観たいテレビにかじり付きながら豚肉の生姜焼きをベトベトがっつく。

白い家族。

マンガのよう。

テーブルも床も水道の蛇口も真っ白。

輪郭だけが黒くてあとは透けているようだ。

家族で進路相談なんて無かった。

現在の偏差値に見合った地元の公立とすべり止めの短大でハイ決まり。

私も「こんなもんか」とやっつけた。

高校に入った時はけっこう、大学っていう進路に期待があった……。

でも、父は、私のプライベートな話題になるとすぐに部屋を出ていく。

私も「待って」とは言えない。

父の気持ちが知りたい、知りたくない。

何も言われたくない。言われたらムカツク。

でも、言われないと怖い。

キュルーンと腹が鳴った。

減ってるんだろうか?。

何だかタダメシ喰らっているみたいで後ろめたい。

このまま適当に進学して就職して結婚して終わりか……。

私よ私よどこへ行く?。

と言っても知恵が出るほど賢くもない。

人差し指が鼻の頭をかすった。

指先が汗にまみれた。

風呂に入りてえ。


いきなり熱いシャワーを頭からかぶった。

髪の間から額に落ちて鼻の脇を通って豊麗線ほうれいせんからあごへとしたたる。

そのしずくは乳房に落ちて乳首を包みやがてへそへ落ちる。

臍の穴をあふれた熱いお湯が股の下へにゅるっとすべり込み性器をひたしてクリトリスをまさぐる。

ブルッとする。

石堂くんとセックスしたい。

肛門から肩にかけてジーンと一気に熱くなる。

オチンチンが見たい。

成人のは、昔、父と銭湯に入ったとき見てはいるが、いわゆる勃起したものは見たことない。

私の中に入るときってどんな感じなんだろう?。

怖いんだけど早く処女を捨てたい苛立いらだちがある。

人の噂話になると決まって、誰々と誰々がやったのどうの。

「早過ぎるよねえ……」

と一応言うが、みんな内心あせっている。

石鹸を泡立ててクリトリスを指でなめめる。

すると、クリトリスだけが緊張して、残りの身体からだは熱くだらーんとなる。

しばらくまさぐると愛液が出だして無意識によだれが垂れる。

さらに続けると、全裸の開放感でオシッコがしたくなる。

また始まった……。

はあ……。

気持ちいいのか溜め息か。

オシッコ出ちゃうまで続けようか……。

でもめ。

なんか乗らない。

やり終わったあとのむなしさが怖い。


部屋に上がった。

夜の部屋、少し冷たい。

パソコンを立ち上げたが、また消した。

まぶしくて痛い。

ネットはフィルターが掛かっている。

エロ動画は見られない。

ベッドに、腐った油のように身体からだをどろっと垂らし、壁紙を、ただ何となくツーと爪先つまさきでなぞる。

それだけ。

枯れた髪が目にぱらぱらと散らばる。

コロコロまぶたの裏にかゆい。

手の甲でぬぐはらう。

首元だけ黄ばんだ布団。

西陽にしびで焼けた、汗のえたにおい。

身体からだを丸める。

半回転。

でも、そっちは足元でなおくさい。

遠くで車の急ブレーキの音。

不揃ふぞろいなクラクション。

小さいけどとがっていて耳をキリキリけずる。

目をつむる。

むにゃむにゃと残像。

にょろにょろと頭の中をう。


はーあッ、私、行くとこ無いやッ。


身体からだが落ちる。

眠って今日を閉める。

部活で取りあえず身体からだ動かしておいて良かった。

どうにかこうにか眠れるもんなあ。

今岡……。

イヤなイヤなイヤな一日だった。

明日はどんなだか……。

あてにはできそうにない。

もう寝る……。

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