第17話 雨

『天候を操る魔法か、以前ソフィーが話してくれた、昔この国に現れたその人が使った創作魔法、それにより荒れた大地に実りの雨を降らせたって、でもそんな広範囲なんて……』

「…そうか、別にそんなに広範囲じゃなくても良いのか…」


 私はこの街が見下ろせるような高い建物へとワープをし、イメージを開始する。

 雨は地上の暖かい空気が上昇と共に冷やされ雲になる。

 上空にてさらに冷やされ氷の粒ができ、落下してくる途中で溶けた物が雨となる。

 私がイメージし始めると空の色が変わってくる。

 分厚い雲が現れ、そして。


 ポツポツと、この一帯だけ雨が降り始める。

 雨は次第に強くなり、火の海だった街に降り注いだ。


「よしこれで、良いね!」


 ギルドの方を見るとワイバーンが飛んでいるのがわかる。

『あっちも火の手がまわってるな!』

 再びギルド付近にワープを行う、その直後ワイバーンが火炎弾を数発放ったところだった。


『マズ!』


 私はワープにて火炎弾の直線上へと移動し瞬時に構築した【プロテクト】を発動する。


 着弾寸前のところでプロテクトにより構築された壁により火炎弾は消滅した。


『ふぅー、間に合った』


「お前さん、どこから出て来たんだ?」

 後ろを振り向くと、ギルドマスターと冒険者達がこっちを見ていた。

 とりあえず、笑って誤魔化しておいた。

 再びワイバーンに、目を向けると明らかにイライラした様子で鳴いていた。


「ギルドマスターさん、私があいつを落とすので、後はそちらで倒してもらっても良いですか?」

「はぁ? 落とす? あいつをか?」

「はい」

「まぁ、もしそうなったら承ろう」

「では、お願いしますね!」


『ランちゃん、良い?』

『承知』

 そういうと、先程同様ワープにて奴の上空へと飛ぶ、そして〝龍神〟ランドロスの力を一部解放する。

 黒いもやと禍々しいオーラが右腕を覆い、私の手は龍神ランドロスの、腕へと変化する。

『おお! すご!』

『ランちゃん、じゃあいくよぉ〜!』

『はっ!』

 ワイバーン目掛けて降下し、右腕に込めた力を奴の背中にお見舞いしてやった。

 地響きの様な音が鳴り、見事に奴の背骨をへし折った。

 成す術なく落ちるワイバーン。


「ギルドマスター! では、後はお願いしますね〜!」


 彼等の方を見ると案の定、皆が皆口をあけ、驚愕の表情をしていた。

 しかし、数秒後「奴は瀕死の状態だ、皆やっちまえ」

 ギルドマスターの、声かけに我に返った冒険者達がワイバーンに、とどめを刺した。


 その直後、歓声が上がったが現状、周りの建物は火の海になっており両手を上げて喜べないでいた。

「くそ! 早く火を消さないと!」


 その時だった、ポツポツと空から雨が降り始めたのだ。

「「「雨だ」」」

 周りからそんな声が聞こえてくる。

 瞬く間に、雨は強くなり火の海だった街に降り注いだ。




〜〜〜・〜〜〜・〜〜〜


 ギルドへと向かう王国軍、エリオノール・カレントは見た。

「あれは、あの力は…」

 右腕が変化し一撃でワイバーンを沈めたと思えば、天候すらも変えるあの力。

古よりいにしえより伝わるあの伝承は本当だったのか……』



〜〜〜・〜〜〜・〜〜〜


 歓喜に湧く人々、今回のワイバーン襲撃による被害は少なく無いが、人的被害がそれほど多くなかった事が救われる点であった。



「嬢ちゃん、俺はあんたに謝んなきゃいけねぇ」

「え?」

「アリエラ様より紹介された時は、図々しい奴だと思ったんだ」

「ははは、それは確かに思いますよね。王族からの紹介でギルドって普通はないですもん」


「それより、嬢ちゃん強いんだな」

「マユミです。まぁどうなんですかね」

「おっと、すまねぇ。マユミは一体何者なんだ?」

「あはははは、まぁ想像にお任せしておきますよ、ギルドマスターさん」

「そうか、俺の名前まだだったな。俺の名前はガルムだ、宜しく頼む。それと、マユミのランクだが後ほど変更しておく」

「え? 何もまだクエスト受けてませんよ?」

「何を言ってる! あのワイバーンを倒したのはマユミが一人で倒したみたいなもんだろうが、俺達が最後にしたのなんて、瀕死の奴にトドメを刺しただけだぞ、それにワイバーンは3頭いただろ! 一体は王国軍がやったみたいだが、もう一体は一人の女性が、倒したって情報が入ってきてるぜ、その女っていうのはお前さんだろ?」

「あっはっは〜、情報が早いですね」

「当たり前だ、俺を誰だと思ってる」

『さすがギルドマスター!』

「ところでこの雨は一体何だ? いきなり降ってくるなんてな、運が良いのか悪いのか」

「確かにそうですね……」

「…まさかとは思うがこれもマユミの魔法じゃ、無いだろうな?」

「流石に、天候までは変えられないでしょう! はははは」

『なんて鋭いこのおっさん!』


「結構やられましたね」

「まぁ仕方がないさ、ワイバーンが3体同時だぞ! これだけで済んだ事が奇跡だよ、竜種の中でも一番弱いが、竜には違いないからな、そもそもワイバーンなんてこれまで来たことも無かったんだがな」




『主人! 少し厄介な奴が、こっちに向かってる!』

『厄介なやつ?』

『我の配下だがさっきのワイバーンとは格が違う奴だ』

「え? どういうこと?」

「おう! どうした? 大きな声を出して」

「いや、すいません」

『ランちゃん、本当なの?』

『間違いない、この気配は〝エルダー・ドラゴン〟の気配だな、他にも〝アーク・ドラゴン〟が2体と〝レッサー・ドラゴン〟が7体だな』

「じゃあ合計10体ってこと!?」

「!!さっきからどうした??」

「あ〜、ちょっと待ってもらえますか…」


【サーチ】


 ランちゃんが話した方向を探ってみると、確かに物凄い速さで何かがやってくるのがわかった。

『2.4…10。間違いない10体いるな』

「……あ〜、ガルムさん言い難いのですが…」

「どうした?」

「もうじきこの国に、10体のドラゴンがやってきます」

「………はあ?」

「はい!」

「何を言って…」


 その時、街中に緊急警報が鳴り始める。


「緊急警報だと!!」

「緊急警報って何ですか?」

「緊急警報はな、この国に対して災害級の事が起こる時に出される警報だ」



〜〜〜・〜〜〜・〜〜〜

 

「国王陛下、一大事であります」

「どうした、ワイバーンの件ではないのか?」

「それ以上のです…」


「なに? それは本当か…」

「はい、事実でございます」

 国王陛下に伝えられたのは、この国に10体のドラゴンが向かっているという知らせだった。

「なんて事だ…」

 エルヴィン国王は頭を抱え絶望に暮れていた。

「どう、致しましょう…陛下」

「…………………」



〜〜〜・〜〜〜・〜〜〜


「なに! それは本当か?」

「事実だそうだ!」

「10体のドラゴンがこっちに向かってるだって!!」

「くそ、くそぉー、やっと勝ったと思ったのに!」

「ギルマス、どうするよ!」

「どうするったってな…」



『主人、我を解き放って下さい』

『解き放つ? もう、召喚されてるよね?』

『いえ、我をその名の通りこの世界に解き放って欲しいのです』

『そんな事して大丈夫なの?』

『大丈夫ではないですが、国が無くなるよりはマシかと思いまして』

『…マシか。わかった』

『では、………』


「うん〜、恥ずかしい……けど…」



いにしえより棲まう龍の王よ我が呼びかけにて顕現けんげんしその力を持ってこの世の全てを掌握しょうあくせん]



「〝龍神〟ランドロス」



 私がランちゃんから聞いた言葉を唱え始めると、私を中心に黒い靄が発生し、その中では稲妻が幾重にも走っていた。

 靄は集約されサッカーボール程の大きさとなって私の前に集まっていく。


そして……………。



 靄の中で渦巻いていた稲妻が靄をかき消す様に溢れ出しその中より巨大な龍が姿を表したのだ。

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