第二十三話 パイロキネシス
九重は激怒していた。
九重は学校に学びにきたはずだった。人智外星系探索に出かけるために。それがテロに巻き込まれるときた。しかも校長が首謀者だという。宇宙海賊が襲ってきたというのならまだあきらめもつくかもしれないが、内からなどシャレにもならない。
そして、目の前には今まさに捕縛されようとしているクラスメイト。九重のような奥手でナイーブな男子に仲良くしてくれた貴重な女子でもあるニココが追い詰められている。
なにより、暴漢がその胸元に手を突っ込もうとしていた。
許せない。その無意識の怒りに九重が気がついたときには、武装生徒の武装はすべて破壊・溶解されていた。それからさして間を置かず校舎前広場はニココに制圧された。
携帯型エネルギーフィールドを焼失させた未知の力がある種の超能力であることにいち早く気づいたのはニココだった。ニココは最高ランクのサイコキネシスが携帯型エネルギーフィールドをオーバーヒートさせたと推測した。つまり、ルーマンの誰かが陰ながら助けてくれたのだ、と。
いっしゅん早く事態を理解したニココが狼狽する武装解除された人間十人を無力化するのにさほどの時間はかからなかった。
リーダー以下、武器を失いうろたえるうちに次々とニココに手刀で昏倒させられていく。
鬼巨人の巨体から振り下ろされる手刀は十分に手加減されていなければ頸椎を簡単に破壊してしまう。ニココは訓練されているし経験も豊富なので一応、誰も殺さずに済んだ。
ニココは一通り片付けると辺りを見回し、あっさりと九重を見つけた。
「あれ。ソラは? あと、もしかしてルーマンの誰か見なかった?」
ニココはルーマンの助っ人がどこかに隠れているものと思っていた。あれほどのサイコキネシスは遠隔から行使できるものではないはずだった。
「おれしかいないよ、たぶん」
九重は他に人影を見ていなかったからそう答えた。ニココはそんな九重を興味深そうに見た。
「えー。さっきサイコキネシスみたいなエネルギーを感知したんだけどー」
ニココはそう言うと辺りに散らばる溶解した金属塊を見た。
「サイコキネシス?」
九重は繰り返すと、ようやく思い当たった。
サイコキネシスには強弱がある。弱いものは軽いものを持ち上げる程度しかできない。だが、強いものは人間のような重さのものを押さえつけたり跳ね飛ばしたりできる。エトアルのように。さらにその上となると、もっと他のこともできるものがあるという。パイロキネシスは、熱に特化したサイコキネシスだと整理されることもある。
もしかしてパイロキネシスを使ったのかもしれない、そう思うと九重は興奮してきた。これでもう足手まといにならないで済む、かもしれない。
「九重? 何ぼーってしてるの? まさか九重がエスパーってわけないよね」
何千年かに一度、歴史上に現れる人間の超能力者はとくにエスパーと呼ばれることがある。
ニココは、そうは言いつつも、辺りにルーマンが隠れていないのであれば九重がエスパーである可能性は高いと疑っていた。なにしろ、男子でありながらプリンセス科にいるほどの規格外なのだ。
「おれがエスパー? いや、あはは」
九重はしどろもどろだ。さっきパイロキネシスを使ったとしても、コントロールできていたわけではなかった。そんな状態でえらそうにエスパーは名乗れない。
ニココは九重をじっと見ていたが、すぐに笑みを見せた。
「何にせよ、九重が来てくれてよかったよ。一人じゃどうしようもなかったんだ」
そう言うと、ニココは九重の手をとり、校舎の陰に向かって駆け出した。九重の手がちぎれそうになるほど引っ張られる。
「あんなとこで世間話してるわけにはいかないよねー」
校舎の陰は、ニココの巨体を校舎玄関から出てくる者の視線から守ってくれる。もっとも、校舎の中から誰も出てくる様子はなかった。
辺りは静まりかえっていた。
昏倒させられている連中も、早く助けが来なければ危ないだろう。ピクリともしない。
物陰からその様子を確認するとニココは九重に向き直った。
「もしみんなが捕まってるとしたら、そんなに移動させられないわけだから、校舎だと思ったわけ。で、校舎にフル装備で潜入したんだけど、途中で迷彩が無効化されちゃって。そこから大乱闘。でも、半分くらいはやっつけたかな。キャプテン科とトルーパー科の八割が敵としたら、百人近く別のとこにいるって計算だけど」
九重は自分がシャトル乗り場で見てきたことを話した。
「……で、ソラも捕まってる、と思う。十人ほど隣町からのシャトルから降りてきたってことは、残り九十人は隣町にいる可能性があるかも」
九重の報告を聞くと、ニココは腕を組んだ。
「ふーん、特技、ねー。ソラもただもんじゃないとは思ってたけど、そんな変装、すぐにできるもんかねー」
そう言うと、ニココは大胆に大きく伸びをした。まるで直立する大型のネコ科猛獣のようだ。
「ま、いーや。そっちはソラ姐さんに任せましょー。たぶん、そう言うからには自信あるんでしょ。で、われわれは」
そう言うと、ニココはイタズラっぽく微笑んだ。
「戦力が半減してるところに再度突撃するのがいいんじゃないでしょうか?」
九重は頼りにされているのか、それとも冗談なのか判別できなかった。
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