【4分で怪談】早く開封してください 開ければ見つけられます

松本タケル

本当にあなたが注文したものですか?

 主人公の立本たてもと達也たつやは40代のサラリーマンである。この1年はテレワークばかりになり、会社には月に1回しか行っていない。

 彼の妻はパートで昼間はいない。中学生の子供たちも学校があり家にいない。その結果、彼自身が誰よりも家にいる状態である。


 テレワークが増加して以降、彼は平日に夕食をつくるようになった。もともと、料理は嫌いではなく、苦にはならなかった。

 17時30分の定時まで家で仕事をしたあと、徒歩5分ほどのところにあるスーパーに買い物に行くのが日課となっている。子供たちに、「今日の夜ご飯、何?」と聞かれるまでになったのは少々の自慢であった。


 その日の夕方も達也はスーパーにいた。近所の顔見知りの奥さんたちに会うこともあった。そういう感じが苦手な人もいるが、達也は何ともなかった。

 むしろ、スーパーでの買い物は好きだった。事前に調べたレシピに合わせて材料を買う、特売があったらメニューを変更するなどは彼にとって楽しい作業だった。

 

「3024円です」

 レジで告げられクレジットカードで支払いを済ませた。そして、エコバックに買った品物を詰め込んでいた。

「ん?」

 何気なにげに壁に掛かった掲示板が目に入った。コルクボードに数枚『お客様の声』が貼られている。

「何じゃこりゃ?」

 達也は首をかしげた。


『T.T.様へ 荷物を送りました  S.S.より』


 ボールペンで走り書きのように書いてある。その他の『お客様の声』は、「XXの商品を置いてください」とか、「店員の態度が悪い」みたいな内容だ。しかし、その紙だけ異なっていた。

「T.T.って・・・・・・オレのイニシャルじゃん。偶然か?」

 達也はたいして気にせずに店を出て家路についた。


 彼の家は一軒家だ。郊外にある閑静な住宅街。妻はパート、子供も部活で帰宅していない時間だ。

「ん?」

 玄関口に段ボール箱が置いてあった。

「ネット通販で何か買ったっけ?」

 それほど大きくない段ボール箱。持ち上げると軽い。

 貼られている帳票を見た。

「送り主・・・・・・S.S.?」

 大手の運送会社からの配送だ。最近、普及してきた『置き配』というやつだ。配送時に直接、手渡さずに玄関口に置いてもよいことになっている。


 そこで、達也はハッと思い出した。

「さっきのお客様の声・・・・・」

 とりあえず荷物を家に持って入った。受取人の住所・氏名の記載はあるが差出人の住所はない。差出人氏名に『S.S.』とだけ記載がある。こんな記載で大手の運送業者が受理するのが不思議だった。


 達也は箱を開ける気にならなかった。

 振ってみるとカランカランと音がした。漆器に乾いた何かが当たるような音だった。

「お客様の声を貼った奴のイタズラか? 明日、スーパーに行って誰が貼ったのか聞いてやろう」

 達也はそう考えて、箱を開封せずにクローゼットにしまった。

 晩御飯を作り、帰宅した妻子と食べているうちに達也は箱のことを忘れていった。


 翌日。

 達也はその日も夕食の当番だった。前日と同様、スーパーで買い物。

 荷物を詰めながら、

「そういえば、昨日、不思議な事があったっけ?」

 と回想しつつ掲示板に目をやった。

「!?」

 達也はその場で硬直した。


『T.T.様へ 早く開封してください 開ければ見つけられます S.S.より』


 冗談にしてはやりすぎだ。

 しかも、赤色で書かれている。文字からインクが不気味に垂れていた。

「こんな紙を貼るスーパーもどうかしている」

 怖さはあったが、スーパーへの怒りも湧いてきた。

「店長、呼んでください!」

 達也は大声で近くにいたパート店員をつかまて店長を呼ばせた。


「この『お客様の声』を誰が貼ったか教えてください」

 達也は昨日からの事情を説明した。

 店長はその場を離れてパートの人達に確認をしに行った。


「すみません。誰が貼ったか分からないですね。『貼らせてくれ』と突然来た場合、パート店員がそのまま貼ってしまう場合もあるんです。本日、出勤していない者が対応したのかもしれません」

 達也は平謝りする店長にこれ以上言っても無駄と思った。

「すみません。大声出して。分かったら教えてください。また明日、来ますので」

「紙、お持ちになられます?」

 達也は虫酸が走る思いをしながら紙を受け取った。手がかりになると考えたからだ。

 

 スーパーの前でスマートフォンを出して確認した。パート終わりの妻から時折、「これ買ってきて」みたいなメッセージが入ることがあったからだ。

「お、メッセージが入っている。買い物中に見れば良かった」

 達也はメッセージを開いた。妻からだ。


―――

地域の防犯連絡で回ってきたんだけど、一昨日おとといから近くの小学校の男の子が行方不明なんだって。誘拐の可能性があるって。送られてきた写真を付けたので似た子がいたたら声かけてみて。ウチもちゃんと戸締りしないとね。

―――


「ただ事じゃないな。周囲を見ながら帰ろう。早く見つかるといいけど。あと、帰ったらあの箱を開けてみよう。誰が送ったか手がかりがあるかもしれないし」

 達也はそうつぶやいて家路に着いた。


 歩き出した達也のポケットから『お客様の声』がはらりと落ちた。


『T.T.様へ 早く開封してください 開ければ見つけられます S.S.より』

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