第7話【工場落ち】

翌月、分類考査の結果が出た。何が功を奏してか、

晋はなんとエリート中のエリート集団と呼ばれる図書夫となった。

図書夫は刑務所の教育課のお膝元で、少数精鋭部隊。

今回は晋を入れたたった8人の構成だった。

 図書夫の仕事は所内の刊行物のすべての管理であった。

刑務所の少ない娯楽の一つであった書物は大いに人気があり、

各工場から毎週読みたい本の注文がリストとなって大漁に来る。

それを図書夫が承り、館内図書館から探し出して

指定の工場に届ける「完本」という作業を行っていた。

このため、普通は許されないことだが、図書夫は所内中を

自由に行き来できた。一週間の貸し出し期間を経て戻ってきた

1500冊近い本を、毎週図書夫が異常をチェックする。

本の間には思いもかけない受刑者の所有物が挟み込まれていたり、

いたずら書きがされていたりすることがあるからだ。

何か異常が見つかれば、何番工場の誰がこの本を借りていたかを割り出し、

教育課に連絡するのだ。連絡されたが最後、

本を汚した受刑者は一度入ったらもう二度と出て来れないという、

悪名高い第6工場へ飛ばされる。

 受刑者が自前で購入する週刊誌や月刊誌、私本と呼ばれる所謂単行本の検閲も

重要な作業だった。週刊誌や月刊誌のグラビアが過激であればそのページを破り、

性描写のあるような漫画は抜き取り、私本の場合、一貫して内容が

性的であったり反逆的であったりする場合は、注文した者の手に渡る前に

廃棄となる。刑務所内では禁じられているそれらを見ることを唯一

図書夫だけが特権的に許されているのだ。

「鼻血出すんじゃねえぞ」

笑いながら検閲担当の田島先生が言った。刑務官はみな国家公務員なのだが、

彼らは受刑者に「先生」と呼ばせている。中にはそれに酔い、

良い気になっている刑務官もいた。田島先生は背が高い好青年といった

風貌だった。 晋は初めは笑っていたのだが、やがてその言葉は大袈裟では

なくなってくる。何故なら性的欲求の解消が出来ない刑務所内では、

良い香りのシャンプーを使った受刑者の通った道に、女の色を求めて

群がることがあるくらいなのだ。ちなみに刑務所内で図書係が出てくる

映画としてはクリントイーストウッドの「アルカトラズからの脱出」

ティムロビンス・モーガンフリーマンの二大俳優で送る

「ショーシャンクの空に」がある。

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