終末

肋材の軋み音が耳を聾する。崩壊が始まった。

「貴方も死ぬわよ」

凛菜は余裕綽々だ。それとも精一杯の強がりか。

「カノープスを信じている」

教授の出血量が致命的になってきた。すでに虫の息だ。

「哀れな人ね」

女はスカートのポケットから婚約指輪や佐伯直筆の手紙を取り出した。古風な人物である。そして、それらを操作卓脇に投げ入れた。カランコロンと乾いた音、しばらくして重低音が響いた。

「何を企んでいるのだ」

松戸が弱弱しく訊く。

「玩具にされてるのは俺達だ、ってさっき暴露したじゃない。本当にそうなのよ。だからカノープスは面白がって裏切った」

重力波が探知され、発生したばかりのMBHめがけて凛菜の思い出が発射される。

「貴様。最初から化けていたのか」

冥途の土産にしてはあまりに雪辱的だ。

「そうよ。嫁瓜新聞の記者も魔王を滅ぼしに来た勇者も私。ハッキングしてVRのアバターを差し替えたの。貴方の一挙手一投足は老人星が把握してるわ。彼と話し合った結果、あんたを釣ってベラベラ喋らせようって」

そして死んだはずの乗員がむっくり起き上がった。

「お、お前ら」

松戸に怒り狂う体力はもうない。

凛菜は血糊を落とす手伝いを済ませ、ひらひらと手を振る。

「最後にありがとうと言わせてもらうわ。だって貴方が人類を知的恒星体に売るなんて大それたことしなければ、あの人の正体がバレなかったんだもの。売国奴についていく男なんか、こっちから願い下げよ」

「この空域から出ていけると思うなよ。すでにカノープスの能力を増幅する処置は施した。じきにお前達という情報じたいが、パワーアップした彼に取り込まれる」

これで凛菜の命運は尽きた。勝った、と教授は確信した。

ところが、だ。

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