不可解な事情聴取

常磐署は松戸教授を任意聴取したがアリバイに不備はなかった。佐伯直哉助教授の遺体発見現場は電算センターの専用ブースで完全な密室だ。研究成果の漏洩を防ぐため端末は主演算機と閉回路で接続してあり、個室内のインフラも独立している。鑑識課は劇薬や毒ガスから害虫まであらゆる暗殺手段を仮定したが成人男子がドロドロに融解する現象を説明できずにいる。斎苑の専門はブラックホール情報熱力学でエネルギーと情報の等価原理を究めている。

すなわち、情報とは記録する作業である。仕事をすれはエネルギーが消費されてエントロピーが熱として廃棄される。稼働中のコンピューターが放熱する理由はそういう事だ。佐伯は松戸の指導下で究極の記録媒体を探していた。全てを呑み尽すブラックホールは換言すればエネルギーと情報の宝庫だ。佐伯がそこに「居る」と主張するのだ。警察は鑑定留置請求の方針を固めた。


「…面会時間はあと五分です。最後に何か?」

嫁瓜新聞の三栗凛菜めぐりりんな記者が促した。

「君はそうやって姿を変え形を変え逢いに来てくれるが、答えは見つかったのかね?」

アクリル板越しに女は微笑んだ。「私が女になった理由。それがヒント」

タイムアップ。

世界は初期化された。

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