シナリオを書いた

 学校で本格的に小説を書き始めたのは、入学から半年ぐらい経ってからだと思う。

 その前に僕らは、5分ほどの音声ドラマのシナリオを書かされた。

 音声ドラマのシナリオは小説と違って、ほとんど全てをセリフだけで構成しなければいけない。そして、シナリオの中に必ず「人間以外の何かを登場させる」というお題が与えられた。

 僕は帰りの電車に乗っている時に、そのシナリオで使う発想がふっと湧いてきた。

 僕が書いたシナリオは、初っ端から女が包丁で男を殺そうとしているというサスペンス感バリバリの展開だった。そして悪魔と天使(人間以外の何か)がそれぞれ女に囁きかけるのだ。悪魔「コロセ、コロセ」天使「だめよそんなことしちゃ」と。そしてついに女は包丁を男に突き刺す。死の間際、男はこのような懺悔の言葉を呟くことになる。「ごめんな、ポテトチップスの最後の一欠けらを食べてしまって」

 バリバリのサスペンスから、「お前そんな理由で殺そうとしてたのか!」という一瞬にしてコメディへ持っていく手法を採用した。さらに後半は、本来物語に関わることのないナレーター(ほぼ神)が積極的に物語に介入していくというメタ的な展開になってさらにカオスになっていくというシナリオ。

 これが僕が生まれて初めて書いたシナリオだった。


 どうやら僕が書いたシナリオは、その内容が評価されたらしい。学園祭の時に、僕のシナリオだけが選ばれて、実際にステージで一般のお客さんたちの前で声優学科の人たちが僕のシナリオを演じてくれることになった。

 僕もその場に行ってステージを観た。相当ウケてましたよ。まあ、シナリオを書いた人間が「天才ですから」(by桜木〇道)。


 学園祭では、自分たちが書いた短編小説を自分たちで冊子にして(表紙はイラスト学科の人たちが描いてくれた)、一般のお客さんに対して販売もした。普通の生活ではなかなかできない経験だったと思う。


 その後しばらくしてから、ノベルス学科と声優学科の交流会があった。ちゃんと先生たちも同席する、公式の会だ。

 一人ずつ行う自己紹介では、僕はもちろん軽くジョークをかまして場を温めた。学園祭の時のシナリオの件もあって、僕は声優学科の人たちにも名前を知られていた。

 会がしばらく進んでから、声優学科の女性の先生が僕の隣にやってきた。

「きみと話してみたかったんだ」

 先生はそう言った。僕はもちろん、女性にそんなこと言われて悪い気はしない。

「私は今テレビに出てる芸人さんとか傍で見てきたことがあるんだけど、きみはそういう人たちと似てる気がする。舞台上では憎まれ役を買って出て、悪いこと言って笑わせるんだけど、普段はすごく真面目で礼儀正しい誠実な人たち」

 僕のこれまでの言動や行動を見て、そう思ったようだ。もちろん、僕は嬉しい。僕が尊敬している人の多くは芸人さんかスポーツ選手で、小説家はそもそも名前も知らない人ばかりだ。僕は表現方法が違うというだけで、お客さんを楽しませる仕事という意味では小説家と芸人さんはほとんど同じだと思っている。

 そして最後に先生は、こんなアドバイスを僕にくれた。


「いろんなことにエロくなりなさい」


 なんやそれ!? まあもちろん、いろんなことに好奇心を持ちなさい、という意味だろうけど。なんでエロやねん。

 こうしてその日は更けていった。

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