第24話 事の顛末

【ユイナーダ王城・王太子執務室】



(シオン視点)



「王太子殿下、この度の『ロピアー公爵家爵位簒奪未遂』『公爵夫妻暗殺未遂』『危険、禁止魔道具所持及び使用』で逮捕された、マリー・フォルランの調査結果をご報告しに参りました。」



昨日、ようやく第四騎士団から通称『魔法の指輪事件』の報告が上がって来た。



今日は長兄である王太子殿下に報告をする為、彼の執務室に来ている。



「ご苦労…。」



報告書を渡し、兄上が目を通している間に私達家族の事を説明しよう。




父上には王妃と六人の側妃がいる。

私の母親は第三側妃、他に同腹の妹が二人いる。

兄上とは腹違いだ。

私達兄弟は、仲が良いと思う。

他国では王位を巡って、骨肉の争いをしているそうだが、私達兄弟の間では一度もない。



「なるほど…このマリーという女、馬鹿なのか?

長年かけた割に、計画がザル過ぎるだろ。」

と報告書を読みながら兄上がおっしゃる。



それは私も思いました。



「この『入れ替わりの指輪』というのが無ければ、絶対に成功してないな。まぁ結果的には失敗しているが……。」


「私も同感です。」



兄上付きの侍従が紅茶を入れてくれた。

普段はコーヒー派の私だが、この紅茶は美味しい。



「ほう~。ボルネオール侯爵家のエリー嬢、なかなかやるじゃないか。

今回、女性陣大活躍だな♪

特にこの、サイド家の息女は良いなぁ。

是非、嫁に欲しい。」



あー、また兄上の悪い癖が……

兄上は為政者としては優秀だが、女好きなところが偶に傷である。



「辞めてください。サイド家を敵に回す気ですか?」  



サイド家の兄弟は、シスコンだ。

ちょっとでもターク嬢に手を出したら、何をされるかわからない。

それにあの娘には、恐ろしい“番犬”がついている。



「本人が良いと言えば、大丈夫だろ?

今度、アタックしてみようかな?」



本当に辞めて頂きたい……



「『爵位譲渡の儀式で爵位簒奪する方法』というのは、この女の言う方法で実際に可能なのか?」



やはり、そこは気になりますよね?



「無理ですね。エミールとサイド家に改めて調べさせたところ、アレは只の演出装置でした。

でなければ、養子に迎えた者が爵位を継げませんから。」


「何故、そんな物が使われているのだ?

誰だ?そんな物作ったのは!!

完全に無駄だろう?」



この話を聞いた者は、皆そうおっしゃいます。

でも、この続きを聞くともっと呆れて物が言えなくなりますよ。



「始祖様です。」


「は!?」



驚き過ぎて、兄上の動きが止まってしまいました。



「エミールに改めて文献を調べさせたところ、禁書庫で【始祖様の日記】が発見されました。

それによると『爵位譲渡の儀式が地味だったので、試しに派手な演出を加えてみた。』『皆、喜んでいたから全国的に広めよう。』等の記述が見つかったそうです。」



兄上が再起動しない。

仕方ないので話を続ける事にする。



「エミールによると『その他にも“いろいろとやらかしていた”ようなので是非、調査をさせて欲しい。』との事です。

宜しいでしょうか?」



兄上はがっくりと肩を落としながら



「わかった…許可を出そう。

今回の件が終わったら、専門の部署を設ける。

その代わりちゃんと企画書を出すように……。」


「爵位譲渡の儀式で使っている宝玉ですが、『現行の物を回収し、成りすまし防止の為改めて鑑定の魔道具を組み込んだ物を配置する。』

という事でよろしいでしょうか?」


「あー、そうしてくれ。ただし一斉にだ!

もちろん情報が漏れないようにな。

『変えられないうちに叙爵させよう。』などと馬鹿な考えを持つ者がいないとも限らない。」



兄上の言われるのも、もっともだ。



「その点は、抜かりありません。

只今、数世代前まで血筋を遡って鑑定できる物を開発中です。

現在当主をしている者も、鑑定する予定になっています。

国王陛下にも、先程許可を得ました。

途中、養子を迎えていれば、必ず届出が出されているので、言い訳はできません。」




せっかくの機会ですから、この際一気にやってしまいましょう。




「で、今回の件どう幕を引く?

“次期宰相”としてのお前の意見を聞きたい。」



いよいよ来ましたか……



「今回の件、表沙汰にする事はできません。

クリスとナルキスは、『入れ替え』ではなく『取り違え』。

二人を取り上げた、産婆は故人で身寄りもありません。

亡くなった産婆には、申し訳ありませんが、今回は泥を被ってもらいます。」



「ほう、それで?」



どうやら、今のところは大丈夫そうだな。



「マリー・フォルランは、表向き『急病死』という事で裏で処理します。」



「………。」



この沈黙は…これでは、ダメなのか?



「合格だ!シオン、よく頑張ったな。

次期宰相としてこれなら申し分ない。」



「ありがとうございます。」



今回、このような国家機密事案を王太子である兄上ではなく、私が指揮っていたのは『次期宰相としての素質を確かめるテスト』だったからである。



「では、私はこれで失礼します。」


「あゝ、リリシア嬢によろしくな。」



「はい♪」

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