第16話

 俺たちは午前0時を回ってもゲームを続けていた。

 一とゲームを始めて、二時間が過ぎようとしていた。


「くそっ~。一勝もできねぇ~」

「当り前だろ。相手を誰だと思ってる!」

「はいはい。世界チャンピオン様だよ」


 かれこれ数十回はやっているが、一勝もできないとは、我ながら情けない。

 万が一まぐれで一勝くらいはできると思ってたんだが、ことゲームに関して一は抜かりがないからな。まぐれなんて起きるわけもなかった。それに世界大会明けといこともあって、初めの仕上がりは最高潮だった。

 そりゃあ、勝てるわけねぇよな……。


「やっぱり、一は強いな」

「真もかなり腕を上げた方だと思うがな」


 確かにそれはそうだろう。何しろ、対戦相手が世界チャンピオンなのだからな。自然と俺のゲームの腕前が上がっていても不思議ではなかった。


「ダメだ。今日はもう、このゲームはやめよう。一に勝てる気がしねぇ」

「あはは。いいぜ。次は何する?」

「そうだな……おっと、悪い電話だ」

 

 机の上に置いていたスマホが振動していた。 

 俺はそこに表示されている名前を見て驚いた。


「なんで……」

「どうした?」

「何でもない。ちょっと電話してきていいか?」

「了解。じゃあ、一回落ちるわ」

「あぁ、またかけ直す」

「どうぞごゆっくり。ところで相手は東雲さんか?」

「なっ!?なんで分かるんだよ!」

「あ、マジか……てきとうに言っただけなのに、まさか当たりとは」


 電話の相手は一の言った通り、東雲さんからだった。

 東雲さんとは俺が入院している時に連絡先を交換した。東雲さんが連絡先を交換してないと不便なので、ということで交換しておいた。確かに、母さんや一と鉢合わせでもされたら大変だったからな。その点では俺も連絡先を交換しておいて正解だと思っていた。結局、その使い道をすることはなかったけどな。

 それにしてもなんの用だろうか?こんな時間に電話をかけてくるなんて。これが、東雲さんじゃなかったら、こんな時間に無礼だろと電話を切っていたところだ。


「てか、真とは連絡先を交換したんだな。彼女……」

「ん?何か言ったか?」

「いや、何でもない。じゃあ、お邪魔虫の俺は退散するよ。どうする?今日はこれで終わっとくか?」

「そうだな。なんの用か分かんないし、時間かかるかもしれないからな」

「了解。じゃあ、また月曜日、学校でな。何があったかちゃんと聞かせろよ!見上げ話楽しみにしてるぜ!」

「うっせぇ」


 電話越しに一がニヤニヤと笑っているのが分かったので、俺は悪態をついてそのまま電話を切った。

 そして、東雲さんからの電話に出た。


「も、もしもし」

『もしもし……こんな遅い時間に申し訳ありません。その、少しお時間ありますか?』

「あぁ、大丈夫だよ」

『ありがとうございます。要件を言ったらすぐに切りますので、少しだけお時間ください』

「あ、うん」


 なんだろう。ものすごく緊張する。思えば、東雲さんと電話するのは初めてのことだった。入院中のやり取りはすべてメッセージアプリを通してのものだったからな。

 やばい……。心臓がバクバク言っている。

 緊張しているのは東雲さんも同じらしく、電話の向こうで何度か深呼吸をするのが聞こえた。


『久遠さん。明日、私とデートしてくれませんか?」

「え……」

『そのですね。行きたいところがあるんです……ダメ、ですかね?』

「ダメじゃないけど、いきなりだな」

『ですよね。いきなりだからダメですよね……って、え!?いいんですか!?』

「まぁ、いいよ。どうせ明日は予定ないから。それに、ノートを写させてくれた恩もあるしな」

『そ、そうです!久遠さん私に恩があるのです!』


 『恩』の部分を強調して、声を弾ませながらそう言った東雲さん。

 嬉しそうだな……。

 

『じゃあ、明日はデートしてくれるってことでいいんですよね?』

「そうだな」

『じゃあ、後ほど、詳細を遅らせてもらいますね!』

「了解」

『では、これで失礼します! 久遠さん。おおやすみなさい。明日楽しみにしてますね!』

「おやすみ。俺も楽しみにしてるよ」


 東雲さんの方から電話を切った。

 それからすぐに明日の詳細が送られてきた。

 明日は午前十時に駅前に集合らしい。書いてあるのはそれだけ。何をするは明日のお楽しみらしい。

 

「それにしても……」


 予想外の展開だな。

 東雲さんの方からデートに誘ってくるなんて。これって、少しは俺に心を開いてくれてるってことでいいんだよな?


「てか、東雲さんとデートか……」


 冷静に考えたら普通にやばいよな……。

 何しろ、相手はあの『現代の絶世の美女』だぞ。しかも東雲グループのご令嬢。どんなデートをするのか全く想像ができない。

 

「とりあえず寝るか」


 俺はスマホのアラームを7時にセットしてベッドに横になった。

 

「と、その前に日課のあれをやっておくか」


 アプリを開き、寝る前の日課である裏垢に投稿されている写真を見ていった。

 

「あ、新しい写真がアップされてる」


 俺の目に留まったのは例の裏垢だった。

 なんと、ついさっき更新されたらしい。しかも、その内容を見て驚いた。

 

「なんだこれ……」


 その投稿に書いてあった文はこんな感じだった。


 (明日は気になってる人とデート♡  

 勝負下着を履いていきます)

 

 そして、その文章の上には真っ赤なブラジャーとパンツの写真。

 なんて、前衛的な……じゃなくて、これって!?

 いや、まぁ別人の可能性も大いにあるんだけどな。この裏垢が東雲さんだって確証はまだ何もつかめてないからな。

 

「でもなぁ~」


 タイミング良すぎないか?

 明日、どうにかして確かめれないだろうか?

 もしかしたら、明日確証がつかめるかもな……。

 そんなことばかり考えていて、俺は肝心なところを見落としていた。

 そして、翌日がやってきた。


 


 


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