第7話 秘策は恋のスパイス

 その後豊祭神を名乗っていた男は今まで村人を騙して人攫いをしていた謝意と僕への好意を示して帰っていった。彼はどうやら豊祭神と村人の仲介人で他の村でも同じことをやっていたらしい。豊祭神という神は確かに実在したが僕を生贄に差し出すのは癪なので抗議に赴くようだ。おかげで僕の命は助かるかもしれないけど、こんなよくわからないカマに借りを作るのはあまりにも気持ちが悪い…。交渉の材料として僕の長所を説明するためになぜか服を脱がされて体を隅々まで舐めまわすような視線にさらされ僕の体の感触をこれでもかと調べ上げるために執拗に触られた(こんなことする必要ある?)。

「まぁ・・・とりあえずおつかれさん。・・・・・でもなんとか生贄の件は反故になりそうだしよかったな」

「よくないよ!!なにあのおっさん!?僕こんなに体にキスマークつけられたことなんてないよ・・・もうこれ童貞奪われたってことでいいよね?」

「それはお前の判断次第だけど。ていうかあんなので童貞捨てていいのか」

「いいわけないでしょ!どうせ童貞捨てるならそれこそ僕よりよっぽど生贄にふさわしい可愛らしい女の子がいいに決まってるよ!でも僕ももうすぐ二十歳だしそろそろ経験したいけど相手がいないから妥協しただけだよ!惚れられるどころか危うく掘られそうだったけど全く見向きもされないよりいいよ・・・」

「悪いが聞いてて悲しくなってきたわ。あんなのに惚れられた方がいいと思うくらい女性経験に飢えていたなんて気づかなかったよ・・・」

僕の欲求不満の爆発を刻春がせき止めてしばらくしてようやく僕の気が済んで冷静さを取り戻した。

「ありがとう刻春。僕を助けるためにいろいろ動いていてくれてたんだね。今日君が訪ねてきたときはてっきり見捨てたのかと本気で思ったよ」

「まぁ、それは悪かったよ。でも奴の嘘を暴くにはそれ相応のパフォーマンスが必要だった。事前に仕掛けは用意していたとはいえこっちの手札も不足していたからな。お前が本気で生贄になることを拒否しないとあいつの不意をつけないと考えた。でもまさか本気でお前に惚れるとはおもってなかったけどな」

「あの人なんで僕に興味津々だったんだろう?」

「わかんないけど、そのおかげで生贄の件は保留になったからいいんじゃない?」

「とりあえずは、ね。でもあいつを引っ掛けるためにまさか僕が生贄に選ばれたこと皆に言っちゃうとかずいぶん大胆なこと考えたよね!正直感心したよ」

「いや・・・あれホントにミスった」

「・・・・え?あれって意図して喋ったんじゃないの?」

「あれはただ口走っちゃっただけなんだ・・・。どうしても要女にだけは聞いて欲しかったから。でもあれから俺も親父やほかの人からいろいろ話聞いたりして情報集めしてようやく突き止めたんだ。だからその件は謝ったんだ」

「そっか・・・。それでも刻春のおかげで助かったんだし結果オーライだよ!これからも頼りにしてるよ次期村長」

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