第6話 恰好の生贄

「さぁさ、そろそろ行こうか」

豊祭神が僕の手を引いてどこかに連れて行こうとした。

「って何で恋人つなぎしてるんですか?」

「あんまり大きい声で指摘しないでくれよ。儂だって照れるんだよ。君の手は程よく温いなぁ」

「まるで初恋の女子みたいな反応しないで下さいよ気持ち悪い!今まで男女関係なくさんざん生贄食らってきたのに今更恥ずかしがるのおかしくない?あんたが初心でかわいらしい女の子だったら僕の有頂天ランキングも更新できたのに・・・」

「おいおい、儂だって神の端くれなのだ。女も神も丁重に扱ってくれよ。君もしかして童貞か?相撲ばかりやって人の転がし方は覚えても女の転がし方はしらないようだな。儂が躾けてあげちゃおうかしら♡」

「唐突におかまキャラつけてくるのやめてくれない!?あんたが身に着けてる悪趣味なルビーやらが余計におかまを連想させちゃってるんでぇ!神なのかカマなのか知らないけどこれ以上僕をいたぶるのやめてくださいよ・・・」

もうこのやりとりが不毛だと悟っている。どんなに現状を嘆いても僕が生贄になることに変わりはない。いよいよ覚悟を決めて嫌に熱のこもった豊祭神の手に導かれるままこの場を去ろうとしていたその時

「ちょっと待ってください」

僕らの茶番をしばし静観していた刻春が急に豊祭神を止めた。

「まだ何か用かな?」

「あなたに聞きたいことがあります。ここから奥に見える林に馬車が見えるのですがあれに白刀山を乗せてどこかへ向かう気でしょうか?」

「いや、儂はこの地に住まう神だぞ。わざわざ別な土地に移動する必要などない」

「そう、確かにあなたの言う通りなら移動する必要などない。ですがあなたがこの馬車を買い取ったのは間違いないんです」

「なぜそう言い切れる?」

「あの馬車は人間一人を乗せるにはあまりにも大きすぎる。まるで巨漢の男を乗せるために用意された馬車のようだ。そして私はここに来る前に隣町で大きな荷台を積んだ馬車を買い取る悪趣味な恰好をした男がいたという話を聞いている。実際にその店にいって確認も取れた。私が町中に広めた力士が今回の生贄になるという話をどこかで聞きつけ急遽大きな馬車を用意したことになる」

「・・・仮に私がこの場に馬車を用意していたとしても何も問題はないだろう?生贄と共にハネムーンに行こうと君には関係なかろう」

「そうですね。ですが、あなたは本当の神ではないと確信できました。毎年のようにあなたのような風貌の男が豊祭神様の生贄を差し出す直前に馬車を買い取る裏も取れてます。きっとあなたは代理でどこかに生贄を献上しているのでしょう」

「儂が神ではない?何を根拠に」

「あなたの白刀山を見る目がとても捕食対象を見る目じゃありません。まるで恋する乙女だ。そろそろ白状してくれませんか?悪いようにはしませんので」

「・・・・・そうだ。儂はこの子に恋をした」

え?こいつ神じゃないの?で、僕に恋したって・・・気持ち悪ぃ!

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