1-32 茨、自身のステータスに一喜一憂する

「ステータスオープン」


 ティアナがそう言った瞬間、僕の眼前に半透明の板が浮かび上がる。


「どうかしら」


 ティアナがモフ子を抱え、こちらへとやってくる。

 僕のすぐ横で覗きこんでいるもんだから、ふわりと少女特有の良い匂いが鼻腔を擽り、ドキドキと鼓動が早まる。

 しかし、あまり意識し過ぎると、ティアナに警戒されてしまう為、何とか心を落ち着けつつ、ステータスへと目を向ける。


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 空木 茨(人族) 15歳 


 Lv 1

 体力 20/20

 魔力 300/300

 攻撃 2

 防御 4

 魔攻 3

 魔防 3

 敏捷 5

 知力 80


【スキル】


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「……おぉ」


 自分の能力が数値化され表示されているという状況に、何やら不思議な感覚を覚え、思わず声が漏れる。


「問題無く表示されてるわね」


 とティアナが言うも、僕はその言葉が届かない程に、夢中で半透明の板へと視線を向ける。


「これが僕のステータス……」


 ……わかっていたけど低いなぁ。


 比較対象が異世界の住人であるティアナとモフ子である為、何とも言えないが、それでも決して高い数字でないのははっきりとわかる。


 ……けど、知力は2人より高いみたいだ。


 これは義務教育として幼い頃から教育を受けてきた成果だろうか。

 こうして能力値として可視化されると、今までの勉強が決して無駄になっていないことがわかり、何だか嬉しくなってくる。


 ……あと、魔力がかなり高いような。


 思いながら、すぐ横から板を覗くティアナに問うてみる。


「ねぇ、ティアナ。これってどの程度なの?」


「んーそうね……平均して向こうの一般的な人族よりも低い感じかしら」


 と言った後「勿論同年代、同レベルのね」と付け加える。

 それを聞き僕は、


「やっぱそうかぁ」


 と思わず嘆息をつく。


 ……まぁ、向こうの世界の人は幼い頃から身体を動かしたり、魔法や魔物と共に生活しているんだろうし、そこは仕方がないのだろうが……しかし平均以下と聞けば、どうしても残念に思ってしまう。


 少しだけテンションの下がった僕に、ティアナはまだ話は終わっていないとばかりに口を開く。


「けど、魔力と知力に関しては平均を遥かに上回っているわね」


 種族により異なる部分もあるが、魔力は基本的に魔攻や魔防の数倍の値になるという。

 対して僕の場合は、魔攻や魔防のちょうど100倍。確かに平均を遥かに上回った数値である。


「おー、知力に関しては、幼い頃から教育を受けてきた賜物かな。魔力は……何だろう?」


「恐らく、この世界の魔素が濃い事が要因ね」


 魔素とは空気中に存在する、魔力の素との事であり、この魔素を体内で変換する事で、魔力とし、魔法を行使しているようだ。


 そんな魔素がこの世界はかなり濃く、それに生まれてからずっと晒されてきた結果、魔力値が多くなったのではとティアナ。


 つまり──


「この世界の人は、僕と同じように魔力値が高いと?」


「あくまでも可能性だけど……恐らくね」


 ……なるほど、決して僕が特別という訳ではないのか。


 再び少し落ち込む僕に、ティアナが小さく首を傾げ、


「ねぇ、茨。この世界では魔法は存在しないのよね?」


「絶対とは言い切れないけど、少なくとも僕の知る限りは」


「なら、何を悲観しているのかしら。いくら魔力量が多くても、魔法の使い方を知らなければ、何の意味ももたないわよ」


 ……確かにそうだ。

 ステータスにおいて、一部能力値はこちらの世界でも多大な影響を及ぼすだろうけど、魔力や魔法関連の能力値に関しては、そもそも魔法というものが存在し、それを扱えない事には別段意味のある能力値ではない。


 そして、この世界には恐らく魔法を使える者も、その扱い方を知る者も存在しない。──ティアナとモフ子を除いては。


 モフ子が「ワフッ!」と吠え、尻尾を勢いよく振る。

 その様子は、何やらワクワクしているように見える。


 ティアナはそんかモフ子の様子に小さく微笑んだ後、


「フフッ。モフ子様も一緒にやりましょうね」


「ワフッ!」


「……もしかして」


 何となく察し、呆然とティアナの方へと視線を向けると、ティアナはニッと勝気に微笑み、


「私が魔法を教えるわ。少しの間お世話になる事、プレゼントを貰った事……そのお礼にね」


「……ッ! お願いします!」


 こうして、僕はこの世界の人間で恐らく初めて、魔法を教わる事になった。

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