第7話

「すまない……もう一度説明してくれないか?」

「ごめんなさい、私の言い方が伝わりにくかったよね」


 レイから教えてもらった真実はこうだった。


「え〜とね、まず私には双子の妹がいる。名はマナカという。一卵性双生児だから、顔つきとか、背丈とか、そっくりなのよ。……ここまでは理解できた?」

「100%理解した」


 テツヤはうなずく。


「でも、織部さんに双子の妹がいるなんて話、初耳なのだけれども」

「そうよ。学校で話したことがないから」


 前振りはここまで。

『あれは私じゃないの』発言の真相はというと……。


「昨日、私は風邪かぜを引いていたの。熱が出ていたから、自宅で安静にしていたのよ」

「まさか、俺が告白したのはマナカさんの方で、いま目の前にいる君じゃなかった、なんていわないよな?」

「そのまさかよ。だって、私は家にいたもの」


 そんな安い嘘にだまされるとでも?

 相手がレイじゃなけりゃ、そう返すシーンだ。


「学校の制服はどうしたの?」

「マナカが私の制服を勝手に借りていったのよ」

「制服が消えたことに気づかなかったの?」

「ごめんなさい、その点については……」

「風邪で意識がぼんやりしていた?」

「そうなる……のかな……」


 この日、レイがはじめて赤面した。


「私がバカだったと思っている。だって、妹が私に成りすまして授業を受けてくるなんて、普通は想像しないでしょう。いくら双子姉妹でも」

「ということはだよ、誰にもバレなかったの? マナカさんはバレずに1日を過ごしたの? ずっと織部さんのフリを貫いたの?」

「そうよ……ごめんなさい」


 レイは謝ってばかりだ。

 悪いことをしたわけじゃないのに、テツヤの胸が痛くなる。


「私は基本、誰とも話さない。先生とも、クラスメイトとも。自席でぼけぇ〜と座っていれば、大過たいかなく1日を終えられたでしょうね。そんな隙につけ込まれたといえる」

「つまり、友人が1人もいないぼっちライフが、今回はあだになっちゃったわけかな?」

「あなた、いちいち一言多いわね。少しムカつく」

「ごめん、ごめん」


 テツヤは平謝りしておいた。


 これで現状は把握できた。

 テツヤが告白したのは、妹のマナカの方らしい。

 もちろん、告白をOKしてくれたのも、マナカの方。


 あれ?

 ひょっとして……。

 カップルが成立したのは、テツヤ&レイではなく、テツヤ&マナカになるのかな?


 そうだよな。

 普通に考えればそうなる。

 どうしてマナカが告白をOKしたのか謎だけれども。


 姉のレイは巻き込まれた側の人間。

 2日ぶりに登校してみたら、祝カップル誕生ムードになっていて、疑問符つきまくりの状態。


 責任を取ってよ、織部さん。

 そのような文句を、テツヤの口から伝えるのは、少し違う気がする。


「ここまでの説明をふまえて、最初のセリフに戻るわよ。……あ〜あ、なんで結城くんからの告白をOKしちゃったのかしら。……これでつながったかしら?」

「つながった。完ぺきにつながったよ。ようやくに落ちた。でも、織部さん、この前の校内模試、国語の成績は1位だったよね。それなのに、説明するのは苦手なんだね」

「あんた、ホント一言多いわね。そういうの、しゃくさわるっていうのかしら」

「ごめん、ごめん、本当にごめん」


 これは困ったぞ。

 レイは怒ってジト目になった表情もかわいい。


「これは俺の最大の疑問なのだが……」

「はい、どうぞ」

「もし俺が織部さんに告白していたら、OKしてくれた?」

「OKしないわよ」


 即答である。


「だって、結城くんのこと、よく知らないもの。とりあえず付き合ってみて、徐々に理解していくとか、私には無理なやり方よ」


 レイは明後日の方向を見ながら、指先で髪をくるくるする。


「だよね……」

「がっかりした?」

「まあね。俺は実質、振られたことになるから」

「う〜ん……そうか……結城くんは私に告白したんだよね」

「いや、気にしないで。本当に。織部さんに迷惑をかけるのは本意じゃない。この場できっぱりカップル解消した方がいいと思う。それがお互いのためじゃないかな?」

「ッ……⁉︎」


 レイは椅子を蹴とばす勢いで立ち上がった。


「ちょっと待ちなさい! あなたの方こそ話が飛躍しているわよ!」


 そういって人差し指を向けてきた。

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