Chapter18・ゆめかわファッションは小学生までが限界だ
高一 9月 月曜日 登校
「あら、英紀君。おはようございます」
「真鶴さん、おはようございます。あの、和歌さんはいますか?」
「ええ、いますよ。和歌ちゃん! 英紀君が迎えに来ましたよ」
和歌と喧嘩した週末が明けて、俺は謝るきっかけを作ろうと自分から迎えに来ていた。真鶴家の玄関で会った和歌おばあちゃんが屋内に声をかけてくれる。
「まって。あとちょっとで行けるから!」
そう返事があってからほどなくして和歌がやってきた。口元が強張って見えるが、視線は外さずにこちらを伺っている。きっと意図していることが同じだからだと悟った俺は迷わずに先手を取る。まだおばあちゃんもいるが構うもんか。
「あのさ! 一昨日はごめん。あのTシャツさ――」
「私も! ごめんなさい! ぶったり悪口を言っちゃった」
和歌も負けじと俺の言葉を遮って謝ってきた。
「あ、ああ、別にいいよ。尻餅ついただけだし、ぶっちゃけ何を言われているか分からなかったし。それより、あのTシャツ――」
「いいの、あれが変なのは分かってるから」
Tシャツの話をされたくないのかまた遮られた。すると意外なところから助け舟が出る。
「和歌ちゃん、英紀君の話も聞いてあげたら?」
「おばあちゃん?」
「お友達とは話をたくさん聞いてあげるほど仲良くなれるんだよ。和歌ちゃん。英紀君は仲直りしたくて謝ろうとしているんだからね」
「分かったわ」
祖母の説得を受けて和歌の表情が若干落ち着く。
「真鶴さん、ありがとうございます。和歌、俺が謝りたいのは友達をバカにしちゃったことだよ。Tシャツを笑ったことじゃない」
「え?」
「今もヨーロッパから心配してくれるくらい仲が良い友達をバカにされたから怒ったんだろう? 違うのか?」
「ううん。違わない。なんで分かったの?」
「そんなの簡単だろ。前に和歌の人付き合いの考え方を聞いたんだしさ。それにさ」
「それに?」
「やっぱりあのTシャツは変だよ」
「!」やっぱり恥ずかしかったのか顔が赤くなる。
「おいおい、怒るなよ。さっき自分で変だって言ったんだからな」
「そうだけど……。やっぱり言われるのは嫌よ」
「ごめんって。もうからかわないからさ。それにさ、普段着ている服装がさ、女の子らしくて可愛いからさ。尚更普段との違いが面白くなっちゃったんだ。とにかくごめん」
さすがにおばあちゃんがいる前で言うと恥ずかしくてたどたどしくなる。
「な! 何言ってるの! もう学校行くわよ! おばあちゃんありがとう! 行ってきます!」
そういうと和歌は俺を引っ張って自宅の門外に出て行く。和歌おばあちゃんはそんな俺らを満足げに眺めていた。
***
歩道に出て数十メートル歩くと和歌が歩きながら話し出す。
「まったく、おばあちゃんがいる前であんな事言わないでいいじゃない」
「いや、別に孫娘が可愛いって言われて嫌なおばあちゃんはいないだろうと思ってさ。それに俺が何に謝っているのか早く伝えたかったんだよ」
「おばあちゃんじゃなくて私が気にするの! はあ、まあもういいわ。私も一昨日は悪い事をしたんだし。それにあなたも文明さんに怒られたんでしょう?」
「あ、ああ。家に帰ってから怒られたよ。やっぱり昨日父さんも謝ってた?」
「ええ、私のパパも私の暴力を謝っていたわ。もちろん私も。でも昨日は治佳お姉ちゃんの洋服を買いに行くのが目的だったから話はそれだけ。あとはみんなで楽しく買い物していたわ」
「ああ、そうだったな。治姉も帰宅後に『和歌ちゃんをいじめるな!』って詰め寄って来たけど十年ぶりくらいのヒラヒラフリル付きピンクスカート姿だったからそれこそ笑っちゃったよ。それでまた『笑うなぁ!』ってキレられたけどな」
「ふふっ、笑っちゃだめよ。可愛かったじゃない」
「ああ、正直弟の俺から見ても可愛いって思っちゃったよ。『治姉ぇ! ゆめかわいいぃ!』って言ったら、めっちゃ恥ずかしがっていつもの言葉弄りにもキレが無くなってやんの。ありがとう和歌、治姉特効の武器を手に入れられた気分だよ」
「特効って何? あとゆめかわいいって? 夢と可愛いが一緒なの?」
「ああごめん。特効は特別効果の略だな、ゲームなんかでよく使われる表現だよ。例えば水バゲモンの水タイプ攻撃は炎バゲモンに特効がある、みたいな使い方をするよ」
「ああ! 分かったわ! 私もバゲモンはやったから! じゃあ、ゆめかわいいは?」
「ゆめかわいいは……、治姉が最後に着ていたピンクのフリル付きワンピースみたいな淡いピンクが中心になった色使いの少女趣味の……ってもう見せた方が早いな」
俺はスマホを出してCoocleを開く。
――ゆめかわいい_部屋――と入力して検索!
検索結果を画像に変えると、表示されたピンクを中心にした淡い色使いとフリルやレースで彩られたメルヘンな部屋の数々を和歌に見せる。
「これは……すごいわね……。なるほど、分かったわ。こんな感じの色の可愛いデザインの事を言うのね。ふふっ、確かに最後のワンピースは一番ゆめかわいかったわ!」
「分かった? じゃあまた今度家に来た時に言ってやんな! ゆめかわいいって! 喜ぶぞ!」
「嫌よ。なんだか今のあなたは意地悪な顔をしているから。普通に可愛いって言うわ」
「ちっ、引っかからなかったか。まあそれは置いておいて撮影中の治姉はいい表情していたな。ありゃ和歌が隣にいたからだな」
「え? 見ていたの?」
「見ていたよ。そりゃあ衣装替えの度に俺ん家と撮影会場のそっちの庭を行き来していたら気付くって。二階からそっちの庭は丸見えだしな」
「なんだか恥ずかしいわね」
「んなことないって。本当に恥ずかしいのは異様に興奮してた父さんと教英先生だって。二人とも『可愛いよぉー。天使だよぉー』ってずっと撮影中言ってたじゃん。窓開けたらこっちまで聞こえたよ」
「そんなに? 恥ずかしい……」
「いや、だから気にすんなって。二人ともすごくいい表情してたから父さん達がああなったのも仕方がないよ。治姉一人じゃ絶対にパリコレクションみたいに真顔のモデル撮影会になってたんじゃね?」
「そうね。確かに治佳お姉ちゃんと一緒だったから撮影の間は楽しくてパパたちの様子は気にならなかったわ。それくらい可愛いって褒めた時のお姉ちゃんが可愛かったの! 顔を赤くして恥ずかしがってたわ」
「だろ? 父さんに言われても冷たくあしらうだけだけど、妹みたいな和歌に素直に言われたから治姉も受け入れるしかないからな。それにしても治姉の服装が少女趣味すぎたから隣の和歌の服装が大人っぽく見えたよ。スタイルは普段の可愛い感じなんだけど色が地味目で落ち着いていたからかな」
「そ、そう? ありがと。実はあのサマーニットとハイウエストのプリーツスカートは気に入っているの」
率直に褒めるとそれまで合っていた視線を微妙にずらして感謝を述べる和歌。
「うん、あれならファッションセンスも問題無しだ。カーストの上位にも入れる。あのTシャツさえバレなければな」
「また言った! 嘘つき! さっきもうからかわないって言ったばっかりなのに!」
「ごめん、ごめん! 怒るなって! とにかくだ、今日はまたコミュ英語の授業があるからな。頑張れよ! 今日は順番からして多分姫野さんのグループに入るぞ」
「応援ありがとう。でも前にも言った通りカーストなんか気にしないで、ありのままの私で姫野さんとお話しするわ。見ていて英紀」
「ああ、期待してるよ!」
俺は笑って告げると話題を早速今朝から見始めたバゲモン英語版に変えた。和歌に今日見た場面のセリフは英語でなんて言うのか聞いていると徐々に、周りに帝東生が増えてくる。
通学路上で会った友人達と会話しながら俺達は昇降口へと入っていた。
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