■KAC お題 出会いと別れ

 市立の中学に入学して、ふつうに過ごせたのは、4ヶ月までだった。

 クラス内での人間関係を円滑にするには、悪いこと、先生に怒られることもする必要があって、そうしないと仲間外れになる。人の顔色を伺うのは小さい頃から得意だった。敢えて怒らせることもした。

 自然と身に付いたスキルで、学校生活は順調だったんだ。月に1回の、視察で選ばれるまでは。


 いつも通りの授業中、スーツを纏った大人たちが視察に来た。

 いつも通り軽く、教室内の様子を見ると、隣のクラスへ行くだろうと構えていた。だけど、その日は違ったんだ。ぼくと眼が合う確率が高い。授業中ではあったが先生と言葉を交わし、先生は視線を送る。その相手は、ぼくだった。


 問題は起こしてない、

 成績だって、良い方だ。それなのに。


 親も交えて、この施設学校へ行くよう勧められた。見せてもらったのは、ごくごく普通の学校のパンフレットで、優秀な生徒が多くいるんだと聞かされた。親も始めこそは不思議に思っていたけど、子どもが優秀だと知ると、喜んだ。


 これまで過ごしたクラスメイトには何て言えばいいんだ。親や先生は、転校することになったと纏めれば何の問題も無いと言った。

 確かに、それが一般的で、もっとも自然な別れ方だろう。でも──…


「紺野~、最近親来るの多いな」


 敏感じゃなくても、親がよく学校に来ていれば気になるのは当然。


「転校することになった」


 親に言われたからじゃない、先生にも言われたからじゃない。本当のことを言ったところで、理解はされないだろうから。




 更生、それが主な役割だという。

 施設で、中学2年を迎えた。ちゃんと卒業があるみたいだけど、ぼくがそれまで受けてきた授業というものは一切無かった。

 それぞれの教室を周り、怪しい動きや傷つける言葉が無いか、注意深く観察する。生徒役として、同年代がいること。その役も、ぼくと同様、視察が来てある日突然いつもの日常を変えられるんだ。木広さんがこっそり教えてくれたことだ。


〝優秀な人でしか出来ない仕事で、胸を張れる。だけど、周りの同年代が過ごしてきた日常へは戻れない。その罪滅ぼしにはなってないかもしれないけど、私が知っていることは話すつもり〟


 木広さんが言ってくれたことで、ぼくは施設での仕事をがんばった。中学は卒業できる。楽しい学校生活とは言えないけど。

 それが、ぼくのいつも通りになってきた頃、昴さんと出会った。


〝ここは楽しい?〟


 難しいことを聞いてくると思ってたから、拍子抜け。ぼくがどう言うか、昴さんの中で答えは出てるんだ。だけど、そうじゃない振りをして話を続ける。

 やりがいはある、嘘じゃない。じゃあ楽しいのか。こんなシンプルな質問で迷うなんて。この人は解ってる、そして、ぼくは弱音を吐いた。ぶつけたかった本音を言った。記者は確か、取材したことを文章にまとめるんだっけ。あの施設で見たこと、ぼくが言ったことをどう表すのか。

 組織が決めた方向で施設が誉められた記事になっていても、別にいい。昴さんが心から理解してくれているなら。



  ───…つづく

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