(異世界もの、冒頭のみ)

 足の爪先から徐々に沈んでいく。

 言葉の、物語の海へ潜っていく。


 ようやく読み終わり、僕は息を吸い込む。


 本を読むのが好きで、本に囲まれている僕は、もう一度大きく息を吸い込んだ。読書中はいろいろと疎かになってしまう。やけに蝉が煩いのも知らなかった、肌が汗でじっとりしてきたのも今気づく、喉の渇きでさえ、今頃だ。

 歩ける元気のあるうちに水分補給しないと。椅子から立ち上がり方向転換した足は、積み上げていた本に当たる。そのうちやってしまうと思った。本が好きで、気になるタイトルを買い、好きな作家の新刊を買い、そうして積み上げてしまった本たち。

 いや、読むのが早ければ問題にもならないのに。読めずに積み上げて、挙げ句には足に当たる。床に投げ出された本を掴もうと、腰を屈め手をのばす──…あ、ヤバい。ふらふらする、



「おい、起きんか」

「……へ?」


 一冊の本を読むのに何時間も費やしなければいけない。水分を取らなさすぎて最悪の状態を想像しかけた、生きてることにホッとする。で、白い髭を生やしたオジサンは、何。


「目が覚めたようじゃな、ワシは──簡単に説明するなら神様じゃ」

「はぁ?」

「おぬし、遅読すぎて困っておるじゃろ? ワシから速読術を与えよう」

「それは、まぁ、有難いことですけど。神様なんですよね? 貰えるほど良い行い、僕はしてました?」


 髭をさわり、神様はこう言う。「これまでの転移者と違って、真面目すぎて逆に面倒じゃな」


 現実でも、神様でさえ、真面目はつまらないですか。


「おぬし、困ってることはないのか?」

「速く読めたら、本を積み上げて置いておく必要も無くなりますかね」


 すると神様はわらう。「遅読! 異世界へ行くには充分な条件じゃ。ほれ、行った行った」




 ────

 続きません

 自主企画にプロットがあったので、やってみようかと思ったんですが力尽きました。

 せっかく書いたし、ひっそり置いておく。


 遅読の主人公が速読術を与えられ、魔導書を使い敵を倒す話、だったのかな。


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