第16話 そして人里へ‥‥(始まりの街とは言っていない←)

 第16話 そして人里へ‥‥(始まりの街とは言っていない←)


 刹那の時間は通り過ぎ、夕闇が迫ってきていた。そろそろ一時休憩のためにも宿屋に向かわなければならない時間のはずなのだが――カイヤはまだ始まりの街にすら辿り着けていない。


「とても‥‥本当に名残惜しいが、私はそろそろ一度向こうの世界に戻らねばならない時間だな‥‥」


 景色に魅入りながらも月華の毛並みを堪能していたカイヤがふと我に返り呟く。因みにその手はいまだ月華を撫でている。


「そう言えば其方ら“渡り人”は彼方の世界より魂のみで此方に参り、写し身を使っておるのだったな‥‥」

(あ、住人たちにとってはそういう設定なのか)


 この世界にとっての自分たちの立ち位置を、なんでもない会話で知り苦笑を漏らす。


「まぁ、そんな感じ‥‥ではあるかな。なので、一定時間以上が経つと向こうの身体の維持のためにも強制的に戻されてしまうんだ。そうなると多少の罰則がかけられてしまうから、安全を確保しつつ、定期的に向こうと此方を行き来しなければならない」


 カイヤの捕捉に月華はふむ、と納得の頷きを返し、不知火は‥‥恐らくわかっていないだろう顔で、此方も頷くことだけは真似ていた。


「ならばこのまま人里まで送り届けてやろうかの‥‥おぉ、そうじゃ! 不知火の名のことじゃが、そうそう他人に漏らさぬ方がよい。まだまだ幼い故、名で縛られてしまいかねんからの」

「‥‥ならば愛称のようなものがあった方がいいのか‥‥」


 月華の少々不穏な忠告を聞いて、己の肩できらきらとした瞳を向ける不知火を見やる。月華ほどではないものの、もふもふした毛並みと期待に満ちてキラキラと輝くつぶらな瞳――どう見てもぬいぐるみである。


「‥‥‥‥ぬい、で、どうだろうか‥‥?」

『ぬい! ボクぬいね! いっぱい遊ぼうね!』


 嬉しそうにぐりぐりと頭を擦りつけてくる不知火の撫でてやり、微笑ましそうにこちらの様子を見ている月華に視線を向ける。


「私が向こうにいる間は月華のもとで遊んでいてもらっても構わないだろうか? 流石に一人で置いておくのはかわいそうだ」

「そうじゃのぅ‥‥其方のもとにほかにもシキが増えればまた変わろうが、それまでは我が元に戻すがよかろ。繋がりがある故、其方が此方に戻ればわかろう故にの」

『うん! ボク母様のところで待ってる!』


 無事話もついたところで月華の言っていた人里に着いたらしく、彼女が降下を始める――が、どうにも様子がおかしい。眼下に見えるのは街と言うよりも村‥‥もしくは里と呼ばれるような、素朴で周囲の風景にふさわしい街並み(?)だ。そして、月華を見つけたのかあたふたと右往左往するその姿はみな、いまのカイヤと同じく狐の獣人ばかりに見える。


(‥‥またこのパターンか‥‥)


 胸中で呟くカイヤの瞳には諦観の念がこもっていた――



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更新が遅れてしまい申し訳ありませんm(_ _)m

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