第14話 名付け

 第14話 名付け


「そう言えば其方の名をまだ聞いておらなんだの」


 暫くの歓談のあと、銀狐が思い出したようにぽつりと漏らしたことで礼を失していたことに気付いた。


「即時名乗らず失礼を‥‥私はカイヤと申します。以後お見知りおきを‥‥」

「ほほ‥‥名を預けてくれるか。ならば妾の名も預けておこうかの。妾の名は月華と申す。よしなにな」

「‥‥くひゃん!」


 カイヤと月華が名乗りあっていると子狐が強く鳴き、拗ねたようにカイヤの髪を銜えて引っ張った。


「ちょ‥‥なんだ? 急にどうした?」


 落ち着かせるために撫でようとするとその手をかぷりと甘噛みする。しばらくその攻防を見守っていた月華が楽しげに笑った。


「吾子は己にだけ名がないのが不満のようじゃ。名付けてやっておくれ」

「くるる‥‥」


 月華の言葉に子狐が嬉しげにノドを鳴らし、もふっとした尻尾を揺らした。期待に溢れたきらきらの瞳で見詰められ、必死に悩んだ末、カイヤの口からこぼれた名前は


「不知火」


 瞬間、子狐――不知火の身体から炎が溢れ出すように幻視された。


「うわ!?」

『不知火! ボク不知火! うれしい! ありがとう!』


 不知火が飛びついて甘えてくると、至近距離からだったため勢いに負けてひっくり返ってしまった。そして聞こえてくる幼い声。


「いまのは‥‥?」

「其方と吾子‥‥“不知火”の間に繋がりができた故、この子の声を聴くことが出来たのであろうよ」


 月華が不知火を慈しむように眺めながら説明した。


「其方もこれから、いくつもの出会いを繰り返すであろう。“エン”を“エニシ”とし、絆を結べるかは総て其方次第。精進するがよい」


 くつり‥‥と笑みながら予言めいたことを口にする月華を見ながら、カイヤは甘えてくる不知火を撫でてやっていた――



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◇ステータス◇


 称号:天狐の友→天狐の盟友

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