第12話 たぶん、ここじゃない
第12話 たぶん、ここじゃない
子狐に先導され、森の中の道なき道を歩くこと十数分――鬱葱と茂り目測を誤らせるような樹木達に囲まれ、もはや己だけでは元の位置に戻ることも叶わないだろう。
(さて、かなり深部まで進んだようだが‥‥始まりの街とやらには無事辿り着けるのか?)
始まりの街――チュートリアルを終えたプレイヤーたちが初めて降り立つ町に行くために「この道をまっすぐいけ」と言われたはずだが、カイヤがいるのは道とも言えぬ森の深部。既に大幅に進路変更がなされた後である。
(地図を見れば戻れるのだろうが‥‥まぁ、いいか。何やら理由があるのだろう)
未開拓地の為に地図は空白となっているが、子狐はほぼ一方向に向かっているようだ。何故“ほぼ”となるかと言えば、時々思いがけないタイミングで左右に曲がっているからだ。恐らく何かしらの法則はあるのだろうが、カイヤにはまだそこまで把握できるスキルはない。
そうしてまたしばらく森の中を歩き――それまで少し前を歩いていた子狐が急にぴょいと飛び上がってカイヤの方に前足をかけ、背中側にだらんと尻尾を垂らした。
「どうした? 歩くのに疲れでもしたか?」
耳の辺りをかいてやりながら聞くと、子狐は気持ちよさそうに目を細め、カイヤの頬をペロンと舐めた。そうしてから、まるで早く進めとでも言うように鼻先で前を指し示す。
「あちらに行けばいいのか?」
聞くとこくこくと頷く。やはりこの子狐はこちらの言葉を理解しているようだ。
取り敢えずそのまま前に進み――ある場所で、薄くやわらかなベールのようなものを通り抜けるような感覚があった。
通り抜けた先には柔らかな光が差し、淡い色の花々がとりどりに咲き乱れる広場のような場所と、天を突くほどの大樹が見えた――が。
(違う‥‥言われていたのはたぶん、ここじゃない‥‥)
「誰かおいでかぇ?」
流石に少しばかり遠い目になったカイヤに声がかけられた――
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