鉄道見学ツアー
アスタは仕事を頑張っていた。
今までも充分働いていたんだけど、ヒロシが鉄道見学に連れて行ってくれることになってからは、今まで以上に頑張っていた。
日中は畑で汗を流し、夕方以降は大人に交じってオンライン授業を受けているんだ。同い年の子供達よりも小さく痩せた体で。
ホント倒れちゃうんじゃないっかってくらいに。
その他の子供達も『鉄道バンザイ』に夢中になっている。
もちろん勉強も頑張っているよ。
そんなこんなで旅行当日。
あまり目立たない一般的な日本人の服装に参加者は着替えた。
そうでなくてもエルフ達は美形だし。
子供達とラシンさんはマフラー、レンさんとムムさんは長い髪の毛でそれぞれ耳を隠している。
いつもミーアと二人の時はマンション経由で結界の外に行くんだけど今回は大人数だし、万が一マンションの隣人のおばさんに見られるのもまずい。
なので、事前にマンションから少し離れた公園の林の中に転移先を用意しておいた。
そこなら多少の人数が現れてもあんまり目につかないと思う。
それでもできるだけわからないように早朝に出発することにした。
「さあ皆こっちに来て。結界の外に行きますよ。」
初めての転移魔方陣に戦々恐々のエルフ達。子供達は全然平気そうなんだけどレンさんとムムさんは腰が引けている。
ラシンさんは...興味津々で周りをくるくる回りながら真剣にチェック中。
「ほらラシンさん、おいていきますよー。」
慌ててラシンさんが魔方陣に乗ったことを確認して、魔力を流す。
淡い光が溢れそして消えた時、俺達は公園の林の中にいた。
「ここが結界の外...」
大人達は辺りを警戒しながら、子供達は興味津々にキョロキョロしている。
「さあ、駅に行きましょう。」
まだ林に中は薄暗いが、20歩も歩けば林を抜けて遊具のある公園に出る。
下草に躓かないよう気を付けながら一番端にある遊具にたどり着いた。
「「「わーーーーーーー!」」」
エルフ達がその姿に驚く。
街灯越しに見えたのは地面からバネで支えられている持ち手のあるパンダ。
突然現れた動物に一気に警戒心が高まる。
子供達を守るように囲う大人達。その額に汗が光っている。
「わーーー!」
その横を少し遅れていたミーアが嬉しそうな声を上げてパンダに走っていった。
「これ、乗りたかったんだよねー。ヒロシがさー、公園に連れて行ってくれた時は僕は猫の姿だったからさー、乗れなかったんだよねー。」
パンダの上にまたがり、ブンブン振り回しているミーアの嬉しそうな顔を見て、「あーそうだったな」っとヒロシは思い出していた。
ミーアとこの世界に戻ってきて60年余り。その大部分をミーアは猫として過ごしていたんだ。
そしてこの公園にもミーアと一緒に散歩に来たっけ。
そう言えばミーアはこのパンダと隣のクマの遊具の前で良く立ち止まっていたっけ。
15歳くらいに見えるミーアがパンダをゆすっている姿に少し違和感はあるが、まあ可愛いので問題なかろうと思うヒロシ。
そのミーアの楽しそうな姿を見て、子供のひとりがミーアの方へ走っていった。
「アッ!!!」
慌てるレンさん達エルフの大人。
「だいじょーぶだよー。これ思っていた通り面白いよーー。みんなおいでよー。」
笑顔で呼びかけるミーアを見てまずは子供達がパンダの元へ。
ミーアがパンダから降りて子供のひとりを乗せてあげる。
「ほら、ここをしっかり持ってねー。揺らすよーーー。」
ゆっくりと揺れるパンダに上に乗っている子供はすごく楽しそうにキャッキャ言っている。
その横で他の子供達が物欲しそうにしていたので、ヒロシは慌てて隣のクマにも乗せてあげる。
「さあ、あんまり時間も無いし、順番だからね。」
明るくなってくると人通りも増えてくるし、駅も混雑してくる。
通勤ラッシュにエルフを巻き込むのは大変なので、その前に駅に向かいたい。
何とか子供全員を遊具に乗せて少しだけ遊ばせて、駅へと急ぐ。
まだ遊び足りなくてしょげている子供達とラシンさん。
そう言えばラシンさんが一番興奮してたっけ。
「また遊びに来ようねーー。」
「「「ウン!(ええ是非ッ!!!)」」」
公園を抜けて住宅地から駅前通りを抜けると榎木広志名義のマンションの最寄り駅に到着。
早速自動券売機で切符を人数分購入し、始発から数本目の電車に乗る。
自動改札ではゲートを怖がる子供達を宥めすかすとか、ひと悶着あったけどネットで事前予習していた大人達の誘導で無事通過。
この姿に生まれ変わってミーアと最初に海に行った時のことを思い出す。
そういやミーアも自動改札を怖がってたっけな。
5つ目の駅で下車。
この駅は車両基地と繋がっていて、ホーム間をつなぐ渡り通路部分から様々な電車が見れるのだ。
また電車の洗車場も見えるので様々な電車がやって来る。
特に今日は寝台特急が入ってくることになっているそうで、渡り通路の上には撮り鉄達が何人も並んで写真を撮っていた。
彼らの邪魔をしないようにヒロシ達は整然と並んでいる電車達を上から次々と見ていく。
「.......」
ネットでしか見たことが無い巨大な金属の塊が20台以上並んでいる光景と、その横を物凄いスピードで特急電車が通過していく光景に、エルフ達は声も出せないほどの驚きを感じていたのだった。
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