クエスト6:不思議な夢の中で、女神は降臨する。
「は〜極楽、極楽……」
ホテル内の大浴場の内装はというと、日本のホテルや旅館によく見られる庭園を一望しながらのお風呂……を、西洋風にアレンジしたものであった。
ローマの風呂やファンタジーの世界にありそうな、ライオンの口からお湯が出て、大理石の柱が浴槽からそびえ立っている
ピースクラフターの面々も含む女湯の利用客は全員タオルを巻いてはいたが、中には気にせず堂々と裸体をさらす勇気ある者も少なからずいた。
どうせ湯気で隠れて見えやしないのだから構わんだろう、という考えがその
「さっきお部屋の洗面所とか見た時も思いましたけど、まさかボディソープなんかも作られてたなんて」
「驚いたろー。ちょっとは慣れてきたか?」
首を縦に振ろうとして、思いとどまった紬はやはり横に振る。
フェンリーは妹を諭す姉のノリで「大丈夫、きっと気に入るさ」と、暖かい目をして声をかけた。
「思ったよりフサフサじゃないのね……」
確かにルーナたちは獣人――であり、保有する動物の遺伝子にちなんだ耳や尻尾も生えているが、毛皮がやたらに生えているわけではない。
身体的にもだいぶ人間に近いタイプなのだ。
「つむつむ!」
「すすす、すみません!?」
何気ない疑問が誤解を招き、スズカを傷つけた。
ルーナにフェンリー、ミルは大目に見てくれたが、その3人より年下で紬と3つほどしか変わらないスズカはそうも行かず、デリケートなところに触れられたと思って顔を真っ赤にした。
◇
「お休みなさい……」
入浴後はなんやかんやあってから全員ベッドにつき、その言葉とともに消灯する。
窓からは街の夜景が見え、壁の向こうの平原や森に山々もよく見えた。
そのうち、はじめてのこと尽くしだったゆえの疲労から――紬はぐっすりと深い眠りに落ちた。
「ここは……?」
そのまま翌日の朝を迎え――ていたのなら、もっと気楽でいられたのかもしれないが。
これまた、まったく見知らぬ場所にいたので、両手を見てここが夢か現実なのかを確かめんとする。
何も起きない……。
「気が付いたようですね。ここは【夢幻螺旋の園】。現実と夢の狭間にある、ほかのどこでもない場所」
そこはほのかに紅紫色に染まる星空がどこまでも続いてその中に天体が浮かび、その奥の奥では太陽らしき恒星がまばゆいほどの輝きを放っている。
足元には大理石で作られた床――だけではない、まるで塔の頂上でありながらなみなみと水が引かれ、神話の神々が住まう世界のような壮麗な雰囲気の庭園が広がってもいた。
声がした方向に振り向けば、そこにいたのは、太陽と月をモチーフとする装飾を身につけ、透き通るような純白のドレスをまとう女性。
長く伸びた黄金色の頭髪は右目を隠し、青い瞳はすべての物事を見通す。
その手に握っているのは、先端が太陽と月を掛け合わせた外見をしている不思議な杖。
これらの要素を差し引いても、彼女は神秘的で、眉目秀麗な容姿の持ち主であった。
そう、この世のものとは思えぬほどに。
「ようやく会えましたね。わたしは【ユナイティア】。天体と多元宇宙を司る女神」
「待って、ください……話が高次元すぎて、私にはさっぱり……」
紬は思うように言葉が出せない、ため息をついてしまうくらいだ。
ユナイティアと名乗った彼女の美しさに圧倒され、何をしたらいいかわからなかったからだ。
「…………では、まず…………。あなたがなぜ、デミトピアに行ったのかを話しましょう。現世で白いネコを守るために轢かれて、ベッドの上で意識を失ったあの時、あなたは命を落としたわけではありません」
言葉を失っていた紬だが、ユナイティアの語り出した真実の一節を聞いた時に目の色が変わる。
「えっ……? それって、どういうことですか……!?」
「紬、あなたは
紬からすれば、女神様からそこまで施してもらえるほどの徳を積んだつもりは無かった。
肩入れするほどのことでもなかったはずだ――。
「どうして私を選んだのか?」、彼女はユナイティアへそう訊ねたかったが、怖くなったのでやめた。
「それは、
「悪い人たちが、私を……!?」
ユナイティアは、儚げな美貌をたたえたまま頷く。
表情の変化こそ少ないものの、そこには確かに哀しみがあり、胸中が複雑であることも物語っている。
――真面目な話の途中だったのに、彼女の胸の谷間に目移りしそうになってしまい、紬は己の気のゆるみを恥じて顔を両手で隠す。
だが、ユナイティアは確かに彼女へと微笑んだ。
「元の世界に帰りたくなったなら、あなたがあの日助けた白いネコを探して、
「帰れるかもしれないんですね、私……!?」
希望は見えた。
ごくわずかな望みにすがってでも、懸けるしかない。
紬は、女神を信じる己自身を信じるだろう。
出会ってばかりの自分を助けて守ってくれた、ルーナたちのことも――。
「けれども、気をつけて。今なお、
その刹那、ユナイティアが何かに気付いたような顔をする。
「時間が来たようです。必ず、白いネコを見つけ出して……。彼女ならあなたを帰らせる方法を知っています……」
彼女のほうから遠ざかって行くわけでもないのに、ユナイティアがどこか別のところへと行ってしまう気がして、孤独を恐れる感情と不安に支配された紬は精一杯手を伸ばす。
「め、女神様!? 待ってください!! 女神様……っ……!!」
彼女はそこで現実に戻された。
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