大空より追放者への手向け

 今日は曇り。森の中を低空飛行しているが、昼にも関わらず暗くなっていた。最近は魔物の戦闘もなく、暴れたりない感じはあるが、それでも平和に日常を過ごせているのは感謝すべきものだろう。

 のんびりと森の中を飛んでいると、道端に一人、女性が気に寄りかかっている姿が見えた。装備の所どころが破れ、血が流れている。私は地面すれすれまで高度を落し、彼女に近づいた。


「こんにちは。もしかして手助けが必要になってる?」

「あなたは、旅人ですか……?」

「まあ、そうだね。その傷、相当な相手だったんだろうね」

「ええ……もし手助けをお願い出来るのなら、お願いします。そこにはまだチームの人たちが戦っているんです……」

「チーム、ね。その傷を見るに、まあ無視は出来ないから、様子見だけでも行ってみるよ。場所はどこ?」

「ここから道なりに行って、左側に道があるんです。その先にある豪邸に、います。すみません、巻き込んでしまって」

「旅人ならこういう言葉があるでしょ。旅は道連れ世は情けって。和の文化の里の言葉って聞いたけど、まさにその通りだと思うし、気にしないで。とりあえず、痛みだけでも緩和させる魔法、かけておくから」


 そういって、箒の先端を彼女に掲げ、痛み軽減の魔法をかけた。そして、示された場所に急いで向かう。正直、このような積極的に人助けするような自分ではなかったが、今回に関しては、あの傷を見て、ほっとけないと、純粋に想った。だからリスクが高そうでも、自分の出来ることをやろうと思った。

 そうしてついたところは、貴族の別荘と思われる豪邸だ。精工に掘られた彫刻に像、大きな中央開きの門をくぐれば、正面玄関まで続く歩道がある。だがその歩道は、血塗られた足跡が点在していて、痛ましい姿をしている。


(人間のような足跡の他に、獣っぽい足跡。多分、ウルフ系統の魔物がいるんだ。彼女らのチームの実力は知らないけど、チームで挑んで苦戦しているなら、序列は高め)


 自分なりの分析をして、それから箒のスピードを上げて正面玄関をぶち破って中に入った。

そこには誰もおらず、ただ、床や壁に切り傷や焼け焦げた跡などが見てとれた。周囲の音をよく聞いてみると、奥の方からウルフの声や衝撃音が聞こえ、奥の中央開きのドアを乱暴に開く。そこは大広間で、ちょうど真ん中で人が2人、体躯の大きいウルフと対峙していた。だが、そのうちの一人がウルフの突進により、私の方まで吹き飛ばされる。瞬時に風魔法を使い、クッションを作って受けとめる。飛んできたのは女性だった。


「あ、あなたは……」

「通りすがりの旅人。あなたたちの仲間に加勢を頼まれたから来たんだ」

「そう、だったんですか……あいつ、キング系統なので、気を付けて……」


 その女性はダメージの蓄積か、気を失ってしまった。すぐに戦闘の巻き込まれないように、正面玄関のあるフロアに移動させ、私は一人となっても戦いを続ける男性へと近づいた。


「あなたは?」

「あなたたちの仲間に頼まれてきたんだ。加勢する」

「ありがたいです。気を付けてください。こいつ、相当強い」

「了解。魔法で援護するから、隙を的確にお願い。あ、あなたのことはそう呼べばいいかな」

「えって、とりあえず……」

「まあいいや。リーダーっぽいし、チームリーダーって呼ぶ」


 彼の頷きを確認し、箒を構えてすぐ小、中魔法を準備する。ウルフ・キングは構わず駆けて近づいてくる。チームリーダーは剣を構え、迎え撃とうと走り出した。それに合わせて、炎魔法と風魔法を組み合わせて複数の球体を発射。ウルフ・キングは軽々避けたが、その瞬間に球体を爆破させた。拡散した爆風で体勢を少し崩した隙を逃さず、チームリーダが長剣に雷属性を付与させ、斬りつける。ウルフ・キングはなんとか体を捩じらせ避けようとしたが、その斬撃は前足に入った。ウルフ・キングはそのまま着地を失敗し、転がっていく。


「くそがぁ!」


 ウルフ・キングは悪態をつきながら立ち上がり、私の方へと走り出した。


「そういえば、キングは言葉をしゃべれるんだってね」

「てめえの首をかみちぎってやる!」


 随分言葉の悪いウルフ・キングは私の首筋目掛けてとびかかる。その直前に魔法壁を発動し、ウルフ・キングの口は私の首の直前で止まる。


「キングと言えど、弱っていればこの程度なんだ」


 そう吐き捨て、口の中に先ほどと同じ炎と風の球体を出現させ、爆破させた。牙らしい破片が飛び散り、ウルフ・キングは吹き飛ぶ。その先にチームリーダーがスタンバイしており大きく振りかぶって横斬りをした。ウルフ・キングも体力の限界なのか、成すすべなく吹き飛んで地面へと倒れ込んだ。


「凶嵐出でし赤き暴雲、剣の風は生きとし生けるものに制裁を加えん。『タービランス・ルドラ』」


 荒れ狂う暴風を空魔法により作り出し、その風を魔力によって、凶刃へと変化させる。その乱気流は倒れ込んだウルフ・キングを丸々包み込む。剣の風に包まれたウルフ・キングはその体を刻まれ、最期には暴風の炸裂により豪邸の外へ壁を突き抜けて吹き飛んだ。すぐさま箒に乗ってウルフ・キングの姿を確認しに行くが、見に行った時にはすでに消滅しており、素材を複数落としていた。その素材を素材袋に入れ、チームリーダーの元へと戻った。彼は体力が突き、床に座り込んでいた。


「ありがとうございました。おかげでとても助かりましたよ」

「いえいえ、旅人同士だったし、流石に無視も出来なかったから。でも、ここまでの高難度の依頼、よく受けようと思ったね」

「ええ、ちょっと、色々と事情がありまして……」

「そうなんだ。それじゃあ、報酬金は要らないから、その代わりその事情を聞きかせてほしいかも。もしよかったら、だけどね」

「そう、ですか。そうですね、報酬金のことはともかく、事情はお話ししますね。実は、同じチームの親友たちが、結婚を目標に活動しているんです。それで、あと少しで目標額になると聞いて、色々と考えて、この報酬金を二人にあげて、チームから追放しようと思っているんです」

「それは、すごい良いことだと思うけど、でも、なんでチームから追放するの? それもなにか事情があるって感じだと思うんだけど」

「このまま同じチームにいても二人が辛くなってしまうんです。僕のチームはまだまだ少ない人数でいて、二人の負担も大きいんです。それで、二人とも頑張るタイプなので、自分たちからチームを抜けることはしない。だから、僕がチームから二人を追放して、僕が伝手で大きなチームに繋げれば、負担も少なくてお金も稼げる。今の二人には、この流れが一番だと思っているんです」

「なるほど、それで、追放なんだ。つまりはこの依頼の報酬金は手切れ金ってことね。それじゃあ、なおさらもらえないね。それにしても、君は優しいよ。そこまで二人のことを考えて、恨まれるかもしれない追放ってやり方を考えてるなんて」

「いえ、優しいとかではないんです。ただ、二人が僕たちに気を遣わずに、より幸せな生活を送ることを考えた結果なだけなんです。でも、今回の依頼は正直危なかったです。あなたがこなかったら本当に全滅してたかもしれない。本当にありがとうございます」

「いやいや、まあそういう事情なら助けてになれて良かったよ。それじゃあ、はい、これがさっきのウルフ・キングからとれた素材たち。これもあげるよ。じゃあね」


 彼らの事情を聞き、少しでも足しになればとウルフ・キングが落とした素材も渡して、早々に箒に乗ってその場を退散した。


 先ほどまで曇りだった空は徐々に青い色を見せ始め、雲は千切れていく。その間から指す陽は、追放者への手向けのように輝いていた。


(今日も良いことしたし、そろそろ村を探してのんびりしようかな)


 そう考えた私は、箒をスピード重視のスカイラインモードにして、風を切るようにして飛んでいくのだった。

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