その男、鬱病につき

龍鳥

第1話 いまを生きない

 生きたくない。


この時間をくれてやるから、それで誰かの助けになるなら分けてやりたい。


今日も、電気を付けない部屋の片隅の深夜、1人でキーボードを叩いている。


誰からも読まれることがない、僕の小説に、僕は僕であるために何を拘っているのだろうか。


朝、目が覚めると気分が良くない。まるで夢の中にいるみたいに・・・あぁ!!布団が沈む!!沈む!!部屋が歪んで見える!!やめてくれ!!


・・・そんな悪夢で会って欲しい。目覚めても1人。起こされることはない。


はああ。ははははっ。ははははははは!!僕は自由を謳歌している!!さあ凱旋だ!!平日に働いている連中を尻目に遊び惚けてやる!!


 ・・・さて、真面目になろう。ハッキリ言って、自分が鬱病だとは今でも信じられない。身体が動くし、頭も働くし、人と話せる。人間の三大欲求を飽くなき空腹が続いてイライラしているくらいだ。だが、医者からは

 

 「働ける体ではない、貴方はそういう病気に係っている」


そう言われた。


 仕事をしているクソのような環境の中にいた僕なら、こう叫んだだろう。


 「やった!!これで休める理由ができる!!ざまあみろ!!」


 時間が逆行していく。空気は逆流し、身体に感じる熱は冷たく感じられ、投げていたボールが手元に戻って行く。所謂、車が逆走しているのに自分は逆走しないで運転している、ということだ。


 いま僕は、エントロピーを凌駕した。


 現在、僕は仕事を退職したばかりである。もし在職中だったら、狂喜乱舞していたのだが、もう遅い。指の怪我のせいで会社の社長と意見の衝突が起きたのだ。


 「お前の怪我のせいは、精神病院に行っている薬のせいなんじゃないのか」


 心の中で、怒りが爆発した。あの頃の時間を逆行すれば、会社の工場内にある機械を全て滅茶苦茶にして再起不能にしてやりたいところだった。


 さて、僕は妄想する。

 

もしあの時に、社長を殴っていれば傷害事件が起きる事件だが、バレない機械を作ればいいことだ。


 まず、時間を数ヶ月前に逆行する。ここで注意していかなければならないのは、過去の自分と会わないためだ。ほら、なんか惨めな自分を見ると恥ずかしいでしょ?


 僕は男だ。荒ぶる逆風の中、現在の地獄から急速に逆回転する円盤型の装置に入り、エントロピーを超えタイムマシンとなった人造人間と化して、あの会社へ復讐する。


 会社には数百キロの物を運搬する巨大なブルトーザー、もう一つに社長が運搬に使用するダンプカーがある。


 これを思いっきり正面衝突させる。


 「うおおおおお!!俺は生きるために戦うんだあああ!!」


 意味不明な掛け声と共にブルトーザーは、その大きなスプーンがケーキを刺すように社長のダンプカーを押し潰す。だが諸君、これで終わりではない。仕事で使う備品の倉庫に向かってアクセルを思いっきり踏み倒し、会社の生産に必要とされる物を破壊尽くしたのだ。


 「どうだ、すごいだろう」


 僕は満足して、ブルトーザーのエンジンを付けっぱなしにして、すぐさま装置へと戻り元の時間へと帰還する。これで僕は、心置きなく鬱病から解放される。


 そんなことを考えなら、今日も1人で自慰行為をして頭の中を強制的に満足させている日を迎えて、朝陽が昇った。


 ・・・今日も1日が終わってしまった。さて、君ならどう生きるか。僕はこう生きた。満足はしていない。

 1人で生きると言う事は、こういう最低なことさ。

 

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