第5話 真実

5年前


 月星高等学校はもともと月星女子高等学校ではなかった。男子、女子と共に生徒が存在し何の変哲もない学園生活を受けているはずだった。

 しかし、当時2年の聖利の兄は当時12歳の夕香に殴る蹴るなどの暴力的を行為を行っていた。それは当時同学年の切野夏と一緒にいることがきっかけだった、理由は単純だ。聖利の兄は切野夏に好意を持っていたが告白して振られたのだ、その腹いせに切野夏の知り合いであるであろう夕香は目を付けられ暴力を振るわれた。

 もちろん切野夏は知るはずもない。

 この時の夕香には感情はまだあった、痛み、苦しみ、恐怖が支配する。時には骨折し、血を流すほどだ。夏には打ち明けられなかった。

徐々に生きる気力を失う夕香、徐々にいじめの耐性を得る夕香、何か月たっただろうか、夕香は暴力には屈しない強靭な肉体の持ち主となっていた。それに年上の男子に暴力を振るわれても全く微動だにしない、その様子が聖利の兄の反感をさらに買ったのだろう。

 いつ気づいていたのかは知らない、しかし、当時友達だった聖利もその様子を目撃していたらしく相談を持ち掛けられた。聖利は兄がそんなことをするなんて信じられないといったような雰囲気だった、そして芽生える殺意が夕香には見えた。

ある日、毎日のように学校帰りに暴力を受けていた夕香、その様子を夏が目撃してしまった。当時告白して振られた相手、しかし兄は暴力に快楽を覚えてしまった、止めようとした夏を振り払う。夏は夕香に言う。逃げて、と。その時の夕香は状況を呑み込めてないのかとにかく逃げた。しかし実際には物陰に隠れて様子を伺っていた。

男の暴力は当時好きだった相手にも容赦なく向けられ夕香と同じように殴る蹴る、そして首を絞められるといったことをされていた。夏は夕香ほどの強靭の肉体の持ち主ではない。

 そして夏は動かなくなった、男は何度も何度も刃物で夏を刺す、動かなくなっている夏を容赦なく。夕香はその光景を目にして以来目に光を宿ることはなくなった、笑うことも泣くことも恐怖を抱くことも全てを忘れてしまった。夕香の感情は壊れてしまった。


 それからしばらくたって月星高等学校で3人の男が夏をいじめていた、ということにされていた。そして夏は精神がおかしくなり自殺した。全く別の情報に書き換えられていた。これをきっかけに月星高等学校では男子が次々に消息不明になっていく。まるで夏を殺した者への裁きのように、その3人組も消息不明。

 このままではすべての月星高等学校の男子が消息不明になるのではないだろうか?月星高等学校は危機感を抱き、月星女子高等学校に変わった。しかし裁きの都市伝説として女子たちには受け継がれている、信じないものもいるが以前の月星高等学校に比べていじめは大きく減った、だが、いじめた者には消息不明までとはいかないものの何かしらの不幸は起こるらしい。


 だが、真実は残酷だった。月星高等学校では暴力的いじめをしたものは殺害してもよい、または暴力は振るわなくてもいじめに加担しているものは親族などは殺害してもよい、ただし、その親族は月星高等学校の生徒、または生徒であった人物であり、暴力的行為を行った人間に限る。この闇の情報は今の月星女子高等学校の上層部たちしか知らない、そしてそして、夕香と聖利である。


 聖利が美冬のいじめに加担したのもそれが理由だ、真の狙いは兄の殺害、聖利の目的は達成されている。これは夕香が望んだことでもある、そして、夏の実の妹切野雪。

 フードを被り聖利の兄を殺害、姉の仇は取ったのだ。


 切野夏には切野雪以外にもう一人妹がいた。切野夕香だ、今現在は切野を捨てて黒麗夕香という名前で学園生活を送っており美冬にいじめられているが。


 夕香と雪は双子だった、夕香が姉にあたる。以前から連絡も取っていたのだ。



 真実はすべて打ち明けた。




 一同は混乱した、特に礼奈と奏多である。



 奏多が確認するように言う


「つまり、夕香さんと雪さんは双子で雪さんは聖利さんのお兄さんを殺害したってことですよね?」


「はい、私が殺しました」


 そうなると死体はどこに?


「その、死体とかは」


「私は殺しただけなので…あとは上層部が片付けているのかと」


 私は困惑する、恐怖さえ覚える、そんな歴史があったなんて。ということは美冬さんも。


「ここまで話しちゃったんですね…夕香お姉ちゃん…」


「そうだねー、別に私はどっちでもよかったんだけどねー」


「マジかよ…あのクソガキが夏だっけか?をやったのは分かってたがめった刺しにしてたんだなぁ」


「そうだよー、だからあまり教えたくなかったんだー、でももういないしいいかなーってね」


「おう、そうだな、もう死んでるしな」


 この学校は異常すぎる。警察が動いてもおかしくないレベルの話なのに。


「もしかして美冬さんもやるんですか?」


「まだ、聖利ちゃんのお兄さんと同じ道に行くかはわからないからねー、やらない方向で考えようかなー、それに奏多ちゃんもそういうのは好きじゃないでしょー」


 もちろんである、うなずく。どうにかして分かり合えないのだろうか。


「仕方ねぇ、昼休み屋上呼び出して脅すか?それまではいじめる演技続けねぇといけねぇんだよな、イェンシェンのほうは大丈夫だろ、あいつは洗脳されてるだけだ、解けばいい、礼奈、奏多、お前らは来なくていいぜ」


「聖利ちゃんに何かあるかもしれない、私はついていく!」


「ここまで聞かされて引き下がれるわけない!」


「ちっ、残酷な結果になるかもしれねぇってのに」


「まあいいじゃないですかー」


「わたくしたちも行くのね、まあ聞かなくてもわかっているけれど」


「申し訳ございません尚央様」


「あ、あの、私も様つけたほうがいいですか?」


「わたくしに聞いているの?つけなくてもいいわよ別に」


「そうでしたか、尚央さん」


「話は終わったか?もう夜だな、帰るか、明日は覚悟しといたほうがいいかもな」


「そうね、物事が簡単に進むとは思わないことね」


「だよねー、お疲れ様ー」


「皆さんお疲れさまでした」


 明日、大丈夫かな?最悪の事態、正直私にも予想できないな。更生してくれるのかな。



翌日


「おう、おはよう奏多」


「あ、おはようございます」


「つーかさ、お前別に敬語使わなくていいから、ウザイ」


「え、じゃあおはよう聖利さん」


「おう!」


 聖利さんって実は優しい人なんだな。礼奈さんも大丈夫なのかな。


「おはよう、礼奈ちゃん」


「お、おはようございます」


 あ、ちゃん付けしちゃった。なんというか年下に見えるというか妹ってこんな感じなのかなぁ、いけない、私って緊張感ないなぁ。


「おはよう、夕香さん」


「奏多ちゃんおはよー、あ、私行かないとー」


 教室には美冬さんがいた。でも大丈夫、聖利さんと礼奈ちゃんがいるから。


「うん、無理はしないでね」


「大丈夫だよー」


 昼休み、どうなるんだろう、誰も想像できない。



昼休み


 昼食も食べ終わり夕香さんは立ち上がる。


「行くんだね」


 私も立ち上がる。


「奏多ちゃんは尚央ちゃんと一緒に来てねー、じゃあお先にー」


 何か作戦があるのだろうか、私は従うことにした。B組に向かう。


「失礼します、尚央さんおられますか?」


「尚央様のご友人の方で」


「あ、えーと、はい」


 B組の生徒は様付けしてる人が多いなぁ。


「来たわね、待っていたわ、今日はイェンシェンさんも連れて行くわ」


「え?」


 共犯者じゃなかったんですかね。でもなにか考えがあるはずです、尚央さんだから安心できますね。


「どこに行くんですカ?」


「すぐにわかりますよ…イェンシェン」


「さあ、行くわよ」




 今日も振るってんなぁ暴力、そろそろ尚央達が来る頃か、礼奈、耐えろよ


「ほんとうざったいわねー、そう思わない?聖利」


「おう、少しは反応見せてくれよ!」


 ガタッ、屋上の扉が開いた、来たか。


「あら、こんなところで何をしているのかしら?貴方様たちは」


「更生だよ、なんか文句あんのか?」


 美冬はうろたえた。バレちまったからな。


「よし、じゃあ本番と行くか」


「ちょっと聖利?何考えてんのよ」


「始めんだよ、更生を、お前のな!」


「はぁ?」


「役者はそろったわね」


「何言ってんのあんた達」


「さっきお前は何してた?言ってみろよ」


「…あんたこそ」


「美冬さんにいじめられてましたー」


「はぁ?なんであたしだけなのよ」


「そう、学年トップの美冬さんがそんなことをしていたのね、大問題ね」


「聖利?礼奈?してないわよねあたしたち」


「あたしと礼奈はしてねぇな?付き合ってやっただけだよ」


「礼奈?礼奈はあたしの味方よね」


「…お前の…お前の味方なんて一度もしたことはない!私は聖利ちゃんの味方だ!」


「はぁ?」


「元からいじめていたのは貴方様だけだったということよ」


「なにを…」


 礼奈も少しは言えるようになったな、成長したってことか。さて


「学年トップなんてあれも全部金の力だろ?実際お前の順位なんて20位行けてたらいいくらいだろ、まあ60数人いる中で半分よりちょっと上ってところか」


「みふゆさんは一番偉いんじゃなかったんですネ」


「……」


 図星だろうな。


「どうだ、プライドをズタズタにされた気分はいじめを認めてもういじめないと誓え」


「ふふ、はははっ、あはははっ、そうね、楽しいわ、楽しかったわ。使える奴隷だと思っていたのに」


「何言ってんだお前」


「夕香、あんたはあたしがいじめてきた中で屈しなかった」


 こいつ、まさか1年の時からいじめてたのか、無理もねぇ


「どいつもこいつも助けを呼ぶ、泣き叫ぶ、恐怖に怯える、すぐに壊れるのよ。でも夕香は違った。いくら傷つけても壊れない、あたしは最初はただいじめていた、でも全く動揺しない、その姿に愛を感じたわ。これが愛なのね、夕香、あたしはあんたを愛してる、壊したいほどに、その壊れない姿に胸を打たれたわ。だからもうやめられないのよ」


 なんつー理由だよ、狂ってやがる。


「もし壊れたらどうするんだよ」


「そうね、もし壊れたらあたしの愛はそこまでね。聖利、あんたも壊れなさそうね、もし壊れたらあたしの愛を受け入れてくれる?あたしじゃあんたに勝てないだろうけれど、壊れない者が欲しいの」


「お前は夕香を壊せなかった、お前の負けなんだよ、別の方法で壊してみたらどうだ?友達になってみるとかな、そしたら甘えてくれるかもしれねぇぜ」


「どうやらいじめることに快感を覚えたわけではないという判断でいいのかしらね?」


「一番壊しやすいのがいじめだと思っただけよ、でもあたしは負けてしまった」


「なら、友達として仲良くしていかねぇか?本当の友達としてな」


「それなら壊れるかしら」


 考え方が狂ってやがるがもういじめる気はねぇっってことだよな


「さぁな、それはお前の頑張り次第だ、順位不正の件はどうするんだ?」


「もう、ここにいる全員にはばれてしまっているわね、イェンシェンみたいなのを使うためにしたことよ、あたしが欲しいのは壊れない者、それだけだもの、学力でも権力でもなく壊れない者が欲しいだけなの」


「そうか、なら友達として壊すって言い方もあれだが誓うんだな?」


「そうね、壊れない限りはね」



 実にくだらねぇ理由だったな…それ以来、美冬はいじめをしていない、美冬と夕香二人で遊ぶケースもある、相変わらず夕香は表情を崩さないが。


 隠す必要もなくなったあたしは夕香や、夕香と美冬3人でいることが多い。


 尚央、イェンシェン、雪はだいたい3人で行動している。


 案の定か、礼奈と奏多は仲良くなっていた。やっとあたし離れ出来たってところか、相変わらず熊のぬいぐるみは離さねぇけどな。つーか礼奈がまるで奏多の妹みたいに溺愛されてんなぁ、姉妹かよ。


 南は、ボッチだ。まあ頑張れ、まだ6月中旬だ。友達作っていけ。


 これでやっと楽しい学園生活が送れるな、ふぅ、疲れたぜ。



 次回予告?そんなモンねぇよ、つっても、彼女たちの陰謀が終わりなだけだ。この物語の続きは次の新しい小説で改めて書くらしいぜ。名前も一新してな。今度はこの学園の日常生活が主体だ、楽しい学園ライフの話になるんじゃねぇか?こういう時どう締めればいいんだ?



とりあえず、完ってやつだぜ




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彼女たちの陰謀 @sorano_alice

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