最終話 明日の僕は昨日の誰か
ものすごい殺気に身じろぎさえできない。
「なんで自分どうしで戦わなければダメなんだ。一日置きとか、どれだけかで交代したらいいじゃないか。」
「馬鹿なことを言うな。お前だってそれで満足できないだろう。」
「当たり前だ。元々僕の身体だぞ、でもお前も外に出たいだろうと思って譲歩しているんだ。」
「そうか。それはお優しいことで。ありがたくて涙が出てきた。」
そう言いながらも、こいつは不気味な笑みを浮かべている。
「しかしなあ。ありがたい申し出だがボクは欲張りなんだ。身体の所有権がほしくてね。夢の中しか自由に動き回れないなんて……」
こいつは何かに気づいた様な顔をし、途端に嬉しそうな声になる。
「そうだ。ここは夢の中だ。なんでもっと早く気が付かなかったんだろう。それにお前よりボクの方がこの世界に慣れている。つまり……」
こいつはなにやら目を閉じて、念じている様だ。すると僕の周りを薄い膜が覆い、体が浮き始めた。
「こんなこともできるってわけか。おい、もがいても無駄だ。そのシャボン玉は壊せないぜ。」
「なんだって。なんなんだこれは。どうやったんだ。」
「簡単な事だ。忘れてるだろうが、ここは夢の中だ。夢っていうのは例外もあるが、大概いろんなことができる。コツさえ掴めばなんでも思い通りに出せるんだ。だから出したんだよ。絶対に壊せないシャボン玉をね。」
僕は面食らった。確かに夢の中なら大抵色々できる。そうだった、ここは夢だ。こいつより先に気づいていれば今頃僕が勝ててたんだろか。それに、こいつの言う通り、もがいても刺しても割れやしない。
「くっ……そう……」
何も案が出ず、こんな言葉しか出ないのが情け無い。
「万策尽きた様だな。体とあの娘はボクがもらうよ。なあに。どっちも大事にするさ。」
悔しくて涙さえ出やしない。
「僕はどうなるんだ。ずっとここにいるのか。」
「ずっと……。そうだな。お前はずっとここにいるんだ。ボクが眠ったらお前はここで目が覚める。稀にボクが起きてる時にも目覚めることができるが、まああまり期待しないでくれ。外での事はたまに話に来てやるよ。」
こいつは得意げに高笑いしている。辺りがだんだんと暗くなっていく。僕の頬には一粒だけ涙がこぼれ、こいつはフッと姿を消した。それと同時に辺りは完全に暗闇に支配され、僕の意識は薄れていく。
暗闇に包まれた時、最後まで残っていたのは、あいつの笑い声だった。
薄れていく意識の中、ぼんやりと考えていた。もしかしたら、君と一緒にアイスを食べに行けたのは、こいつの小さな良心だったのかな。こんな突然の別れになるなら、もっとお話したかった。でも今はもうどうにもならない。だって、僕はもう君に会う事はできないんだから。もし君が、明日に僕と出会ったとしてもだ。
なぜなら、今日の僕は僕だったけど、明日の僕は僕じゃない。
昨日に会った僕のような、君が知らない誰かだ。
明日の僕は昨日の誰か いざよい ふたばりー @izayoi_futabariy
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