魔王城近くの村人のほうが強いから解雇します

真名千

魔王城近くの村人のほうが強いから解雇します

 魔王城最寄りの村、その酒場で僧侶は勇者に訴えた。三本足の丸机が叩かれて震える。

「どうして私をクビにするんですか!?最初の村から、ここまで一緒にやってきたじゃないですか!」

 勇者は静かに答えた。

「最初の村でパーティーを組んだ戦士には何度も変わってもらったし、魔法使いも変わった。ついに君の番が来たんだよ」

「酷い!あんまりだ!!」

 僧侶らしく権勢欲がとても強い僧侶は魔王討伐後の栄誉を夢見ていただけに落胆を隠せない。最後の最後で他人に成果をさらわれろと言うのか?

 勇者は溜息をついた。

「君のためでもあるんだ。分かってくれ。君は回復担当だからここまで何とかやってこれたけど、肉体的には強力なモンスターの脅威に晒されてきたこの辺りの村人の方が強い。持って生まれた肉体の強さが違うから、鍛えてどうにかなるもんじゃない。死んだらそこで終わりだよ?」

 さとすように語りかける勇者に僧侶は反論する。

「それなら貴方だって同じじゃないか!」

 勇者は神妙な顔になる。

「そうだよ。だから「勇者」なんだ。余計に命の危険を冒すのは僕一人で十分さ。ま、成長のシードはこっそり全部使わせてもらったけどね」

「あんたって人は!!!」

 他人の家をこそこそ漁るだけでは飽き足らず、仲間に内緒で自分だけにドーピングしていたとは!僧侶はと思った。

(ついていけない!)

 それこそが勇者の望んだ考えだった。




 ――むかしむかし、力を合わせて戦うすべを知る者は弱く、強き者は力を合わせて戦うすべを知らなかった時代、テセウス・マゼランという名の勇者がいた。

 最も弱き人々の出身だった彼は旅の仲間をより強き者に入れ替えながら戦いを指揮し、ついには魔王を討ち果たした。彼もまた魔王との戦いで倒れることになったが、その名声は人類の歴史に燦然と輝いている。一方、彼の旅に同行した人々は全員が生きながらえた代わりに後世に強く名を残すことは叶わなかった。

 それでも彼らが一番の勝者だったのであろう。存命の間、酒場で自慢話の種にする程度には名声に恵まれていたのだから。

 惜しむらくは勇者テセウス・マゼランが最後の戦いで死んだために、冒険の全容を知る者がいなくなってしまったことだった。特に勇者が「テセウス・マゼラン奨学金」として、魔王城近くの村から自らの出身地に毎年奨学生を招く制度を始めさせた深意を知る者は同時代にも僅かで、後世には誰も存在しない。

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