第18話:こんな美少年、独り占め!。信じられるか?。明日、死ぬんじゃないの?

最後はマーちゃん。

あかの他人でもないので遠慮なく厳しく教えた。

マーちゃんは向上心が強くて、もう、自分で単語帳を作って、かなり先へ進んでいた。

だから、私もわりと細かいところまで突っ込んで教えた。

マーちゃんは嫌な顔一つせずに黙って付いてきてくれた。

「へえ。直ちゃん天才!。いつのまに」

こっちのセリフだ……。

自分だっていつのまにこんな美少年に……。

4年前はこんなに首は白く長くなく、唇は赤く膨らんでおらず、肩幅はゆったり大きくなかったぞ……。

校内一のイケメンかあ……。

マーちゃん、ホントに美少年だなあ……。

私はつい見惚みとれる。

「ねえ、翔や唯人の家、どうだった?」

「はかどったよ。二人とも言うこと聞いてくれる」

「何話したの?」

「何って勉強だよ」

「ふうん……」

気に入らないようだ。

何だよ……。

いてんの……?。

マーちゃんは私が石川翔や沢田唯人の話をすると、すぐ不機嫌になってプイッとソッポを向く。

私が「三人面倒見る」って言ったらすごく喜んでたのに……。

きまぐれなんだよなあ……、マーちゃん……。


学校でも、このきまぐれに私は翻弄ほんろうされる。

石川翔と沢田唯人は平気で私の所へ来て、何の屈託くったくもなく質問を投げかけてくる。

「直子ッ、ここ、教えて!」

「延塚先生!。お願いしますよ!」

こんな感じ……。

でも、マーちゃんは絶対校内では私に喋らない。

家で二人きりのときに集中して熱く勉強する。

そして、私が石川翔や沢田唯人の質問に答えてる姿を見て、また、不機嫌そうにプイッとソッポを向くのだ。

複雑だなあ……。

思春期の男の子の心理はイケてない女子の私にはよく分からない。

でも、たまに群衆の隙間すきまって目が合うと、照れくさそうに微笑んで恥じらう。

かわいい。

校内一の不良が私に照れる。

何だか胸が締め付けられる。

しかし、今まで、マーちゃんがこんなに美少年だったって気付かないなんて……、

私は物凄ものすごく不健康な生活を送っていたんだなあ……。

ちょっと反省する。


そして私自身の心の変化にも最近気付く。

屋上でマーちゃんと二人きりで勉強する。

そのとき私は、今までのマーちゃんとの空白の4年間が取り戻されていくようで本当に幸せな気持ちで、

本気でマーちゃんを助けたいと思うのだけど、

でも、そう思えばそう思うほど苦しくなる。

何と言うか、巨大な責任感と言おうか……。

マーちゃんを合格させなくちゃいけないのは当たり前だけど、

それよりももっと大きな、何か……。

例えば、素敵なマーちゃんに見合った女にならなくてはならないとか、

マーちゃんに恥をかかせちゃいけないとか、

マーちゃんの前で恥をきたくないとか、

何か、得体のしれない強い責任感……。

マーちゃんといると、この胸をきむしられるような苦しい感覚にたびたび襲われるのだ。

これは生まれて初めてのことで、石川翔や沢田唯人といるときには感じない。

マーちゃんといるときにだけ感じる心だ。

とても、もろく崩れそうで、本当にガラス細工のようで、決して軽い気持ちで持ち運びたくない危険なものなのだ。

私は病気なのかなあ……。

でも、病気でも、それでもマーちゃんと一緒にいたいと思う。

何だろうね、

私はただ単にマーちゃんに散々世話になってきて、その恩返しで勉強を見ているだけなのにね。

不思議だよね。

でも、幸せだよね。

学校で二人だけで目が合って微笑み合って、

そのアイコンタクトだけで幸せで、

もう、それだけで生きていけるような気になれる。

一気に二人だけの世界に入る。

昔の幼馴染みの頃のように……。

ただ、昔と一つ違うのは、マーちゃんが第二次性徴を迎えた大人の男性になってしまったってことだ。

これは決定的な違いで、この溝は埋められそうにない。

そして、この溝が、この幸せな時間が永遠に続かないように暗示しているようで何だか切ない気持ちに私を追い込むのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る