第17話:個人教授。大昔の文芸エロ映画かよ、トホホ……。

とにかく、次の日から個別指導が始まった。

まずは沢田唯人。

6人兄弟の長男。

まあ、やかましい。家の中は追いかけっこの連続!。

この嵐の中で沢田唯人は何事もないように平然と会話する。

とにかく沢田唯人は明るくて冗談好き。

喋るたんびにジョークをはさむ。

でも、四六時中喋っているけど、要領がいい。

私が言ったところは物凄ものすごい集中力で覚えていて、言わなかったところは一切勉強しないで趣味のギターを余裕でいている。

子供たちが暴れて収拾がつかなくなったとき弾いてまとめるんだとか。

芸歴10年でかなりの腕前。

いい音色ねいろ爪弾つまびく。

「それ、何て曲?」

「これは中国の曲で『チュー・ニン』」

「へええええ」

「ナニ、マジに取ってんの。チューニングだよ、チューニング」

「何だよッ」

「でも、これは良い曲でしょ?」

 眉間みけんに皺を寄せて華麗に爪弾く。

「ほう、何て曲なの?」

「台湾の曲で『チョー・ゲン(調弦)』」

おまえアホやろ……。

沢田唯人に鍋をご馳走になる。大勢の兄弟のサバイバルでほとんど肉が食えなかった。沢田唯人は別れにケーキを持たせてくれた。

「ありがとな。今日買ってきたんだ」

照れくさそうに笑う。私は遠慮なく頂いて帰路に着いた。


お次は石川翔宅。

農家の家族で、お祖父じいちゃんからお孫さんまで盛大に出迎えてくれた。

「悪いねえ、息子が世話になって……」

お母さんがお茶やお菓子を出してくれたが、さっそく勉強に入った。

石川翔は真面目で大胆。

要領は悪いけど、ガムシャラに前へ進んでいく。

だから、よく忘れて間違えるけど、すごいバイタリティで反復するので大局的にじわじわと内容を把握していく。

そして、夕飯を食って農作業を手伝ってまたまた勉強する。

石川翔の家からは獲れたての野菜や新鮮な肉をずいぶんご馳走になった。

ついでに夕飯のあと、農作業も手伝わせてもらった。

鶏のエサはトウモロコシを乾燥させたもので、モワモワッと甘くていい匂いがした。

「いい匂い!。食べていい?」

「いいよ。明日、ゲリするけど」

「『食うな』って言えよ……」

石川翔の家からは野菜やら肉やらを大量にもらった。

家計が助かると正直嬉しかったけど、その帰路、私の腕は引きちぎれた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る