第5話:令和残侠伝。不器用ですから……。切っても切れないマーちゃんと私。

私たちは保育園から小学校4年生までずっと同じクラスだったので、本当に兄弟のように毎日過ごした。

一番感動したのは、5歳のとき。

男の子たちが公園でドッジボールをしていて、楽しそうで、私もやりたいとマーちゃんに言った。

マーちゃんはやりたくないと言ったけど、私があんまり物欲しそうな顔をしていたので、マーちゃんが珍しく「入れて」としぶしぶ頭を下げた。

でも、男の子たちは、マーちゃんはいいけど、私は女の子だからダメだと言った。

マーちゃんはずいぶんねばって説得してくれたけど、男の子たちは猛反対し続けた。

私は情けなくマーちゃんの後ろに付いているだけで、マーちゃんは辛抱しんぼう強く交渉を続けた。

でも、賛成者が出ず、交渉が完全に決裂したとき、

マーちゃんはキレて、男の子たちにアッカンベーをして私を引っ張っていった。

そして

「二人でやろう」

と言って、新聞紙を何重なんじゅうにも丸めて大きな玉を作り、

それをガムテープでぐるぐる巻きにしてボールをこしらえた。

そして、夜遅くまで河川敷かせんじきで二人のドッジボールならぬキャッチボールをした。

そして、別れるときマーちゃんは

「ごめんね直ちゃん」

と私に謝った。

冗談じゃない、謝るのは私の方である。

このとき、私はマーちゃんとずっと一緒にいたいと思った。

恥ずかしい話。


それから、3年後。小学校2年のとき。

算数の宿題を忘れたマーちゃんは先生から居残りを命じられた。

しかも、宿題の問題集を忘れていたので、八方ふさがりになった。

先生には打ち明けられず、そのころから一匹狼だったマーちゃんは四面楚歌状態になった。

マーちゃんの顔が泣きそうになったような気がした。

私はマーちゃんと一緒に帰ることにしていたので

「どうしたの?」

と聞いたら、

マーちゃんがドッとくように事情を説明した。

私は当然問題集を貸したけど、すぐに先生に帰れと言われた。

算数が得意な私がマーちゃんに答えを教えるんじゃないかと思ったらしい。

私は教室を出たけど、校門でずっとマーちゃんを待った。

マーちゃんは相当こずったらしく、もう、6時を過ぎていた。

冬の灰色でまわりは真っ暗だった。

かなりしぼられたのか、マーちゃんはヘトヘトになって教室から出てきた。

そして私を見つけるなり目の玉を飛び出させて

「直ちゃんッ。どうしたの!?」とびっくりして聞いた。

私はとにかく心配で

「先生、許してくれた?」と急いで聞いた。

「うん、宿題全部やったよ」とマーちゃんは気を張って言った。

何か、すごくこらえているようだったけど、私はあえて聞かなかった。

そして

「ごはん食べよう」

とだけ言って私がマーちゃんの手を握った瞬間

「!!!!!!!!!!!!!!!!」

とマーちゃんが言葉にならない声をギーギー上げて号泣した。

あの人一倍負けん気の強いマーちゃんが人前で号泣したのは後にも先にもこれが初めてだった。

そしてこんなにも泣くマーちゃんの姿を見たのもたぶん私だけだと思う。

おそらく澄ちゃんも見ていない。

私とマーちゃんだけの秘密。

これも恥ずかしい話。

こういうことを繰り返して、私とマーちゃんはいつも離れずに助け合って生きてきた。

保育園も小学校もずっと一緒に泣き笑い生きてきた。

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