第二十一話 ムト、訓練を加速させます

「あの大きさで軽いというのは、どんな意味があるのでしょう?」


 ソリアはピヴォが気になるのか、わたしに聞いてくる。

 身長約160センチのピヴォが持つ『両手剣ペンタグラム』は彼の身長より少し短い。

 それを軽々とあつかえるのは、付与ふよの効果で軽くしてあるからだ。


「素早い動きが、可能になるよね」


「ですが、攻撃は軽いし、防御も弱いです」


 ゴレイラが、腕に着けた実体の盾で受け、ときどき弾くように合わせると、ピヴォが剣と共にはじき飛ばされる。

 それでも振り下ろす際に重くし始めたのか、盾と触れるときの音に重みが増す。

 ゴレイラも、展開する防壁ぼうへきの強度が上がり始め、実体の盾で受ける前に、ピヴォの剣を受け流してる。


「よし! 休憩だ」


 12時、鐘が二回鳴り響き、ゴレイラの号令がかかる。

 食事の後、午後も訓練が続く。

 わたしも、ソリアと昼食をった後、二人で訓練室に戻る。

 何をするわけでもないけど、他にやることもないし、なによりお父さんの創った魔道具が気になる。


 皆、朝に比べると格段に上達してる。


「すごいね、みんな」


「魔道具がすごいのですよ。神威しんいをうまく力に変えているみたいです」


 わたしのつぶやきにソリアが答える。


 皆の胸元に下げられた『思石しせき』はずっと白く発光している。


「白の光、神の加護だっけ」


「普通の魔道具は、それぞれの魔法特性に合わせて使えるようになっています。なので、火の特性がある人は火の魔道具を上手く使える。でもアヤのご両親が創ったモノは、魔道具に付与ふよされた効果がとても強い。でも、神威しんいにしか反応しない。まさに『神器じんぎ』と言えるでしょう」


 お守りとは違うんだよね。

 わたしの持つお守りは、誰でも使えるはず。

 実際、のぞみんは使えているんだ。


「あれは、わたしやソリアでも使えるってことかな?」


 五人の訓練風景を見ながらつぶやく。


「そう思いますが、剣術や体術といった肉体の鍛練というのはまた別でしょうね。全員、学校で基礎的な修練は済ませていますし、ピヴォ以外は聖都警備隊から異動してきてます」


「ピヴォは?」


「学生です」


 聖都では13歳から17歳までの子供は全員同じ学校に所属しているそうだ。

 13歳で『思石しせき』を与えられ、それぞれの適正に合わせいろいろな職にくため勉強し、王宮や警備隊、商売人や職人など、だれもが仕事を得られる仕組みがあるらしい。

 逆に言うと、『思石しせき』によってある程度の将来が決まってしまうということだ。

 13歳で決まっちゃうのか……いいのか、悪いのか。


「白い光、神威しんいを出せるものは貴重で、要職ようしょくくことが多いです。ゴレイラやフィクソアなども警備隊から聖堂騎士に上がって行く予定です」


「じゃあ、親衛隊は?」


「聖都警備隊の中から、兄が見出みいだした者が親衛隊になります。さまざまな魔法特性を持つエリートと言えるでしょう。もちろん、剣術なども一流です」


 わたしはピヴォを見る。

 良い動きはしていると思うけど、これまで見た親衛隊と対等に戦えるかと言えば、どうなんだろう。

 どんなにいい武器でも、大人と子供の差は大きいと思う。



「アヤ様、何かお気づきのことでも?」


 休憩の際にゴレイラに聞かれる。


「まず、アヤ様ってのはやめてください。アヤでいいです」


「いえ、御使みつかい様に不遜ふそんな呼び方はできません」


 フィクソアも真面目な口調で言う。


「アヤ、我慢してください。わたくしも同じことをずっと言ってますが、ピヴォ以外、ソリアと呼んでくださらないの」


「ピヴォが不敬ふけいなんだ!」


 アラン兄がキッとピヴォをにらむ。


「なんだよ、ソリアはソリアだろ? 俺はアヤもアヤって呼ぶぜ」


 ピヴォはそうするのが当たり前だろ? と自然な感じでそう言った。

 ホントはムトだけど、アヤって呼ばれ方も慣れてきた。


「それでアヤ様、私たちの動き、どう思います?」


 アラン妹が聞いてくる。

 いくらオリバーさんが否定しても、御使みつかい様と思われているのは間違いなくて、わたしの目から見て、神威しんいを上手く使えているか聞きたいということなんだと思う。

 わたしは、偉そうなことは言えないけど、お父さんの魔道具を上手く使ってもらえるならと、思いついたことを言う。


「アランさん二人は刃先に効果を出してますけど、その範囲を広げることができる気がします」


「私の剣は刃先に熱をまとわせているのだけど、範囲というのは?」


「ゴレイラさんの盾と同じく、実体の無い部分に広げられそうな……ごめんなさいうまく説明できません」


 アラン妹は『セキケン』を構え、神威しんいを込める。

 刃の先端から根本まで熱がこもり、赤く染まりここまで熱が届く。

 すると、赤い光が、剣の大きさを越え始めた。

 1メートルほどの刃長なのに、赤熱した部分は2メートルほどに伸びた。


「これは、すごい! アヤ様すごいです!」


 アラン妹は、剣を持ったままわたしに飛びつこうとするのであわてて逃げる。

 嬉しいのはわかるけど危ないって!


 それからアラン兄も同じことをして驚く。


「私はどうでしょう?」


 そう聞くフィクソアには、地上10センチ程度の高さを維持いじして飛び続けるアドバイスをする。

 上下移動だと、地表に激突する怖さがあるので、対人戦では高速水平移動に慣れるほうがいいと思った。


「俺はどうですか?」


 ゴレイラには発現する浮遊盾ふゆうたての強度を変える練習を提案する。

 同じ強度だと相手も慣れてしまう。

 紙のような弱さ、岩のような強さ、これを任意に発現させるだけで相手の姿勢を崩せると思った。


「お、俺は?」


 ピヴォが勢いよく聞いてくる。


「ちょっと貸して」


「お、おう」


 わたしは『両手剣ペンタグラム』を借りる。

 なんとなく、これは見せた方が早いと思った。

 わたしは剣術なんて知らない。

 剣道だってやったことない。

 でも、イメージなら。


 最軽量を意識して剣を振るう。

 『チョクレイ』が輝き、踊るように舞う。

 振り下ろす際に加重し、振り切る前に軽量化させね上げる。

 円運動と直線運動を混ぜ、見えない相手と剣をまじえる。

 サッカーと同じだ。

 相手の動きを見て、重心を見極めれば、動く範囲は限られてることがわかる。

 その届かないエリアにボールを運ぶ。

 剣を避け、逃げられない位置に剣を運ぶ。

 やっとことのない動きは演舞えんぶのようだった。


 さらに、流れの中で試したいことがあった。

 剣の動きに対し重量を変化させるだけじゃなく、重くした剣を床に突き立て、そこを支点にして体を振り回す。

 体を移動した先で剣の重さを最軽量にし、今度は体を支点に剣を振り回す。

 それを交互に、たまには連続し、思うがままに回る。


 時間にして数分、わたしは呼吸すら忘れていたようで、動きを止めた後は呼吸困難になった。

 ソリアとピヴォが支えてくれて倒れたりはしなかったけど。


「お前、すげえな!」


 ピヴォが驚きと喜びの顔でわたしを見てる。


御使みつかい様……」


 フィクソアだけじゃなく、他の三人も唖然あぜんとしたままそうつぶやく。


「アヤ、あなたはいったい……」


 ソリアも目を丸くしながら驚いてる。

 でもねみんな、そんな動きができて、わたしが一番驚いてるんだよ。

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