第二十話 ムト、訓練に参加します

 翌日、朝食後。

 昨日騒ぎのあった訓練室にソリアと向かう。

 ソリアの居室きょしつでは聞こえなかったけど、聖都では9時、12時、15時、18時の四回、鐘が鳴るようになっていて、聖都の人々はそれで時刻を知るそうだ。

 わたしの世界と同じ時計の文字盤だったので、わかりやすくてありがたい。

 9時に鳴る鐘は一回。

 その前には防衛隊の五人も、オリバーさんも集まってた。

 防衛隊の五人は、騎士服とでも言うのだろうか、同じ紺色の長袖、長ズボンで統一されてる。

 ちなみに昨日見た親衛隊は、デザインは同じで朱色だった。


 テーブルの上に、昨日見た魔道具、いや、武器が並んでる。


「ゴレイラにはこれ『思考盾しこうたてエスクド』」


 六角形の盾に、腕に取付けるバンドが二本。

 ゴレイラは指示の通り左腕に装着した。


神威しんいに反応するようにしてあり、かかげたその先に防壁ぼうへき展開てんかいする」


 オリバーさんの説明を聞き、実際に試してみるゴレイラ。

 胸元が光り、かかげた盾の前に、二倍ほどの大きさで白い六角形が浮かぶ。


「これは……昨日のアヤ様の防壁ぼうへきと同じものですか?」


 アヤ様って……やめてほしいんですけど。


「似たようなものだ、こっちは神威しんいが必要だがな」


「アヤ様のは、シールドバッシュ的な攻性こうせい機能がありましたが、こちらは?」


 シールドバッシュって、シルジン王を吹き飛ばしたことかな?


「鍛練次第だな。今はまだ木刀すら止められんだろう」


 オリバーさんが、浮かんだ白い盾に向かって殴りつけると、あっさり貫通したこぶしはゴレイラの顔面で止まる。


「今は物理攻撃でも止められないが、慣れれば実剣でも精霊魔法でも止められる」


 ゴレイラは真剣な顔でうなずく。


「次、フィクソアには『浮遊動輪ふゆうどうりんドウロン』だ」


 小さいフラフープと大きいフラフープが、自転車のスポークみたいな、たくさんの細い棒で繋がってるデザイン。

 オリバーさんに説明を受け、体をくぐらせて、小さいフラフープを腰の辺りに持っていくと、シュッと腰のサイズにフィットした。


「これは?」


「空を飛べる」


「えっ?」いくつもの驚きの声が上がる。


 なるほど、ドローンみたいなものか。と、わたしは納得するけど、地球にだってこんな道具は存在しない。

 わたしも欲しいな。


「オリバー、それでどうやって戦うのです? 私はこれでも騎士の端くれなのですが」


 困惑こんわくしてるといった感じのフィクソア。


はちや鳥のように戦えばいいだろう? 地面に衝突しないようにな」


「これも、鍛練次第というわけですか……」


「まあ、飛ぶだけじゃなく大気操作の付与ふよもある。他にもいろいろができるぞ? 次、アラン兄妹には『セイケン』『セキケン』だ」


 金髪の二人に渡すモノは、ゲームなどで見たことがある。

 1メートルほどの剣に拳銃らしきものが付いてる。

 ガンソードとか言うんだっけ?


「剣、と魔導銃?」


 兄、アランジレイトが青い『セイケン』

 妹、アランエスケルが赤い『セキケン』


「それはわかりやすいだろう? 二人の魔法特性に合わせ、精霊を使わずに神威しんいで効果が発動する。むろん、ここでも使える」


「た、試してもいいですか!」


 妹の方が勢いよくオリバーさんに食いつく。


「そこの的に当ててみろ」


 壁際にいくつか丸い絵柄の板があり、アランエスケルは剣を構え、引き金を引いた。

 剣先の銃口から赤い線が走り、的に穴を開けた。

 いや、だめでしょこれ!

 人に当てちゃだめ!


「オ、オリバー、試合の勝敗ってどこまでするおつもりですか?」


 ソリアもあわてる。

 試合って言うから、審判が付いて、なにかルールはあるんだろうけど、もし死んでしまったらどうするんだ。


「まあ、これから向こうに行って細かい取決とりきめをしてくるが、一般的には相手を戦闘不能にするやり方だな」


 これじゃ生存不能になりそうだよ。


「さすがにこれはまずいだろう……」


 兄、アランジレイトも苦笑してる。


「試合はともかく、試練では必要になる。剣の刃先はさきにそれぞれの効果が付与ふよできるから、それを使った鍛練をするがいいぞ」


「わかりました。慣れておきます」


 赤い剣が火? 熱の効果で、青い剣は水の効果だろうか?

 これもお父さんが創ったのか、なんだか怖いな。


「さて、ピヴォ、お前さんにはこれだ」


 一番武器らしい形をした、両手剣とでも言うのだろうか。

 真っ黒くて、握りと刃の間に五つの穴が開いてるのが特徴だ。

 五つの丸の位置関係は。


「『両手剣ペンタグラム』だ」


 オリバーさんの告げた名前の通り、五角形になってる。

 ピヴォは神妙しんみょうな顔をしてささげ持つ。


「意外と、軽いな」


付与ふよ効果として重量調整が可能だ」


「……俺が非力だからってことか?」


 ピヴォは不平な顔をするけど、重量を変化させることが、どれだけすごいことかわかってない。


「ふん、お前はそれに込められた意味をまずは理解しろ。それがわからなければ先には行けん。さて、今日のところはまず慣れろ。明日以降は状況を見て考える。ではシルジンに謁見えっけんでもしてくるとしよう」


 オリバーさんは有無を言わせず言い放ち、出て行こうとして、わたしの元へ来た。

 ポケットから、チェーンとベルトを取出す。


「アヤ、『思石しせき』と「お守り」のホルダーだ」


「ありがとうございます!」


 わたしが受け取ると、オリバーさんはにこりと笑い、訓練室を出て行った。


 巾着に入れっぱなしで、動くとカチャカチャして気になってた。

 チェーンはソリアや他の皆と同じ形で、先端に『思石しせき』が固定できるようになってるペンダント。ソリアに聞きながら固定し首から下げる。


 ベルトはアームバンドとでもいうのだろうか、腕に取付ける。

 五つの穴が五角形の配列で開いてる。

 穴のサイズも、ピヴォの剣にある五つの穴と同じ大きさに見える。

 穴の中に『セイウチの心臓』『チョクレイ』『生命の花』をはめ込む。


「素敵ですね」


 それを見てソリアが微笑む。

 わたしも笑顔で応えるけど、オリバーさんは何故この装備をくれたんだろう?

 まるで、いつでも使えるように準備しておけ、そんな意味にも感じてしまう。


 訓練は、フィクソアが飛行訓練、アラン兄妹が剣をまじえ、ゴレイラにピヴォが剣を打ち込む。

 わたしとソリアはなんとなくそれをながめる。


 最初に大きな変化を見せたのがフィクソア。

 ジャンプしてから着地するまでの時間が延びて、明らかに浮いてる時間が増えた。

 飛び回るまではいかないけど、素早く着地したりゆっくり着地したりと動きに強弱が付いてる。


 アラン兄妹も、はじめはゆっくりと剣を合わせてたけど、次第に剣が合わさる度にジュッっという音と共に蒸気じょうきが上がる。

 熱と水の効果だろうか『セイケン』は青く、『セキケン』は赤く輝き始めてる。


 ゴレイラとピヴォは微妙な感じ。

 ゴレイラの白い防壁は剣を止められず、ピヴォも剣を振り回すため軽量にしてるみたいで、まるで段ボールの剣を振り回してるみたいに見える。

 そのため、ゴレイラの左腕にある実体の盾で十分防ぎ切れてる。


 これは練習になってるのだろうか?

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